排水口用ゴミ受け事件【意匠判決紹介】

令和2年(ワ)第11491号 意匠権侵害差止等請求事件

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/703/090703_hanrei.pdf

■事件の概要

 本件は、「排水口用ゴミ受け」の意匠に係る意匠権を有する原告が、被告による被告製品の製造、販売等が原告意匠権を侵害するとして、被告に対し、その製品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償金2200万円等の支払を求めた事案です。

 本件では先使用の抗弁の成否が争われたところ、裁判所は、被告が被告製品を仕入れていた仕入先業者が、原告意匠権について先使用による通常実施権を有するため、被告が当該仕入先から被告製品を仕入れて販売等する行為は原告意匠権を侵害しないとして、原告の請求を棄却しました。

対比表

■主な争点

(1) 原告意匠と被告製品の意匠の類否(争点1)

(2) 先使用の抗弁の成否(争点2)

(3) 原告意匠の登録が意匠登録審判により無効にされるべきものと認められるか(争点3)

(4) 差止め及び廃棄請求の可否(争点4)

(5) 損害額(争点5)

 上記の争点のうちまず争点2が検討され、先使用の抗弁が成立するとの結論となったため、その他の争点については判断するまでもなく、原告の請求には理由が無いとして棄却されました。

 以下、「ダイセン」というのが、先使用権を有すると判断された、被告が被告製品を仕入れていた業者です。

 

■裁判所の判断

(1) 被告製品の意匠の特定

 前提として,被告製品の意匠について検討する。

・・・

イ 上記アのとおり,被告製品の意匠を個々の排水口フィルターに基づいて特定する場合,被告製品の意匠が以下の構成を備えることは,当事者間に争いがない(なお,原告意匠は,意匠公報(甲 1)の【意匠に係る物品の説25 明】の記載や【図面】等に照らすと,形状に係る意匠であると解するのが相当であり,排水口用ゴミ受け本体の表面部に模様等が存在しないことがその構成態様に含まれると解することはできない。)。

(ア) 基本的構成態様

a ゴミ受け本体が,中央に円孔が開設された円形状のものである。

b ゴミ受け本体の半径方向の一部に前記円孔に連通する切り目が形成されてなる。

c ゴミ受け本体の外周縁上に該本体から突出したつまみ部が形成されてなる。

(イ) 具体的構成態様

e 前記切り目は,別紙被告製品目録及び別紙被告意匠(被告)目録の図面から明らかなように線状の切り目である。

f 前記つまみ部は,ゴミ受け本体の直径に対しわずかに突出する弧状(半円状)のものである。

g 前記つまみ部を上部とすると,前記切り目は,つまみ部の左側近傍部又は右側下方部の位置に形成されてなる。

・・・

(3) 検討

ア 原告意匠の出願日は令和元年8月20日であるところ,上記(2)において判示した被告製品の開発経緯によれば,被告製品を開発・製造して被告に販売したダイセンは,Wuxi社及びCNTA社との間で洗面台用排水口フィルターの新製品の開発を進め,平成31年4月にWuxi社から抜き型図面(乙20)を受け取り,これに基づき試作品を作成した上で,被告に対して新製品販売の提案を行い,被告製品の意匠は令和元年7月に被告に採用されて,被告製品の製造・販売に至ったものと認められる。

イ ダイセンがWuxi社から受領した上記抜き型図面の構成は,上記(1)イの被告製品の意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様をいずれも備えたものであり,被告製品の意匠と同一又は類似するということができる。そして,同図面に基づいて作成されたと推認される被告製品の試作品(乙23の2の1の下段,乙23の2の2,乙23の4)も同様に被告製品の意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様をいずれも備え,被告製品の意匠が被告に採用された後に,ダイセンの担当課長がCNTA社の担当者に送信した電子メール(乙27)の本文に挿入された試作品の画像も同各態様を備えていたものと認められる。

 そうすると,原告意匠と同一又は類似する意匠は,平成31年4月にダイセンがWuxi社から知得し,仮にそうではないとしても,ダイセンが被告と打合せを重ねる中で原告意匠の出願日までの間に創作したものであり,その意匠は平成31年4月から被告製品の意匠の採用時まで,一貫して,上記(1)イの基本的構成態様及び具体的構成態様を備えていたものというべきである。

ウ 意匠法29条は「現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は,その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において,その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」と規定するところ,上記(2)のとおり,ダイセンは,令和元年8月2日には被告から2万個の被告製品の製造を受注していたことに照らすと,原告意匠の出願日(同月20日)には原告意匠又はこれに類する意匠の実施である事業を開始していたというべきである。

 加えて,ダイセンが,原告意匠の出願日当時,原告意匠について知っていたことを示す証拠はない

エ 以上によれば,原告意匠と被告製品の意匠が類似しているとしても,ダイセンは,原告意匠を知らないで自ら原告意匠又はこれに類似する意匠を創作し,又は同意匠の創作をした者から知得して,原告意匠登録出願の際,現に日本国内において原告意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしていたということができるので,意匠法29条に基づき,原告意匠権について通常実施権を有するものというべきである。そうすると,被告が,原告意匠権について通常実施権を有するダイセンから被告製品を仕入れて販売等する行為が原告意匠権を侵害するということはできない

以上

徳永弥生

徳永弥生