「ローラーステッカー」商標権侵害損害賠償等請求事件 【商標判決紹介】

令和3()2608商標権侵害差止等請求控訴事件(大阪高等裁判所)

判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/175/091175_hanrei.pdf

控訴人(一審原告) P1(匿名)

被控訴人(一審被告)フジホーム㈱、サンリビング㈱

〔事件の概要〕

商標権者である控訴人が、控訴人標章「ローラーステッカー」(以下、「本件商標」という。)を付した車輪付き杖(以下、「本件商品」という。)を卸売業者である被控訴人に譲渡したところ、被控訴人は梱包箱に被控訴人らシール「ハンドレールステッキ」を貼付し、本件商品とともに梱包されていた控訴人説明書を被控訴人ら説明書に差し替えて販売した。そこで、控訴人は、被控訴人が行った行為は本件商標の出所表示機能及び品質保証機能を積極的に毀損するものとして、商標の剥離抹消行為と評価し得る本件商標権侵害に当たる旨主張するとともに、上記譲渡によって本件商標権が消尽するとみるべきではないと主張した事件です。

〔本件の争点〕

争点:前半期間(本件商標の登録公報発行前)における被控訴人らの共同不法行為の成否

争点②:後半期間(本件商標の登録公報発行後)における被控訴人らの商標権侵害行為の成否

〔裁判所の判断〕

1.争点①について

 一部を補正する以外は、原判決を引用しました。

原審では、「製造者における自他識別や顧客吸引の問題は、製造者から卸売業者あるいは小売業者へ商品が譲渡された段階で一旦目的を達すると考えられるから、卸売業者あるいは小売業者としては、当初の商品名により販売すべき旨の合意や製造者が譲渡する際に付した条件、あるいは商品の性質上当然そのようにすべき特段の事情や公的規制のない限り、当初の商品名のまま販売することでその顧客吸引力等を生かすこともできれば、より需要者に訴えることのできる商品名に変更したり、あるいはより商品の内容を適切に説明し得る商品名に変更して販売することも許されると解される。

原告は、製造者が一定の商品名を付して流通に置いた商品について、その後の段階の者が商品名を変えることができないのは当然である旨を主張するが製造者が販売を終えた商品について、以後の者が別の商品名により販売したとしても、直ちに製造者の利益が損なわれることにはならないし、ブランドとしての統一を図る等の必要があれば、販売に際しその旨の合意を得れば足りることであるから、そのような合意等のない場合に、卸売業者や小売業者が、常に当初の商品名によらなければならないと解すべき理由はない。」と述べて、控訴人(原告)の主張を採用しませんでした。

2.争点②について

控訴人は、商標権者である控訴人が控訴人標章を付した本件商品について、その譲渡を受けた卸売業者等である被控訴人らが、梱包箱に被控訴人らシールを貼付し、本件商品とともに梱包されていた控訴人説明書を被控訴人ら説明書に差し替えた行為は、本件商標の出所表示機能及び品質保証機能を積極的に毀損するものとして、商標の剥離抹消行為と評価し得る本件商標権侵害に当たる旨を主張し、上記譲渡によって本件商標権が消尽するとみるべきではないとして原審の判断を非難しました。

しかしながら、控訴審では、「商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ない。したがって、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められないというべきである。」と判断しました。

また、控訴人が被控訴人らシールによって覆い隠されたのを問題としているのは、控訴人の屋号であって控訴人標章ではないこと、被控訴人らの行為によって、本件商品本体に英文字で印字された「Roller Sticker」という標章に何らかの変更が加えられたという事実もない(本件商品の品質にも変更はない。)こと、そして、控訴人から本件商品を仕入れた際に梱包箱に同梱されていた控訴人説明書を被控訴人説明書に差し替えた行為についても、「控訴人説明書は、取引によって納入された本件商品の梱包箱の中に、本件商品の使用方法を説明する書面として、本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものにすぎないから、本件商品に標章を付した(商標法2条3項1号)とはいえず、控訴人説明書が取引書類(同項8号)に当たると認めるに足りる事情も窺われない。したがって、控訴人説明書に「ローラーステッカー使用説明書」との記載があるのは、控訴人標章を商標として使用したものとは認められず、控訴人説明書を差し替えたことが控訴人標章の剥離抹消行為と評価すべきものとは認められない。」として、商標権侵害を否定しました。

〔コメント〕

本判決によると、製造業者から小売業者又は卸売業者に譲渡された後に、製造業者が付した商品名が変更されるのを防ぐには、製造業者と小売業者・卸売業者間であらかじめ商品名の変更を禁止する旨の合意を行っておくことが必要となります。

本件でも控訴人は、被控訴人が控訴人標章で発売することの合意があったことを主張しましたが、当該主張は認められませんでした。

清水三沙

清水三沙