ナイトブラ事件【不競法判決紹介】

令和元年(ワ)第11673号 差止請求等請求事件(東京地裁)

判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/576/090576_hanrei.pdf

 本事件は、女性用下着を販売する原告が、被告が販売する商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるとして、被告の販売行為が不正競争防止法2条1項1号、3号に該当するとして訴えを提起した事件です。裁判所は被告の行為が2条1項3号の形態模倣に該当するとして、2億0274万5063円もの損害賠償を命じる判決を下しました。

被告商品表

不競法2条1項1号該当性について

 原告商品は商品の形態であるため、まずは原告の商品形態が商品等表示に該当するかが問題となります。商品の形態の商品等表示性に関してはたびたび取り上げているとおり、①特別顕著性、及び、②周知性が必要であると解されています。原告商品はいわゆるナイトブラ(就寝中に着用するブラジャー)であり、以下の形態的特徴があると認定されています。

形態①() 通常のブラジャーやナイトブラと同様に,バストを覆うカップ部が存在し,カップ部材の表面側全体にレース生地が設けられ,胸元部分は胸元の谷間が見える程度にカットされており,カップ部内部には,外見上膨らみが認められるパッドが設けられている

形態②:() カップ部から背部にかけて連結部が存在せず,肩紐を伴う伸縮性のある筒状の布で,バスト回りを覆っている

形態③:() カップ部材の表面側に設けられたレース生地は,アンダーバスト位置より約6cm長く伸びており,当該アンダーバスト下部のレース生地は,前部のカップ下のみならず,背部を含む胴回り全体に位置する

形態④:() カップ部の両端部に縫着され,肩紐の延長生地を含む3枚の生地が一体となった左右の前身頃が,カップ部分の両端をカバーしつつ,バストの下部を支えるようなアンダーバスト辺りの位置で,バスト中央部に向かって設けられており,当該前身頃は,カップ部材の両端から約5cmの箇所1点において,カップ部材に縫着されている

形態⑤:() 前記(エ)の左右の前身頃は,バスト中央部において,ホックにより連結可能となっている

形態⑥:(カ) 前記(オ)の連結部分には,上下2か所のホックにより3段階で連結幅を調節・変更できる部材が用いられている

形態⑦:(キ) カップ部表面側全体のレース生地は,カップ上部の端部がレースの波型となるよう,カップ部材から5mmないし1cmほど上部まで設けられている

 しかし、いずれの形態的特徴についても原告商品の販売前からそれぞれの特徴を備える商品が販売されていたとして、上記①~⑦は他の商品と異なる顕著な特徴とは認められませんでした。

 なお、周知性についても原告商品の販売期間が短いこと、原告商品の販売前から前期①~⑦の特徴を複数備えるブラジャー又はナイトブラが販売されていたことなどから、「原告商品の形態が長期間独占的に利用されたとは認められないし,原告が行った原告商品に係る宣伝広告が極めて強力であったり,爆発的に販売されたりしたといった,原告商品の形態が広く認識され得るような上記事情は認められない。」として、周知性についても否定されました。

 これにより原告商品の形態は「商品等表示」に該当するとは認められず、2条1項1号に基づく請求は退けられました。

不競法2条1項3号該当性について

 2条1項3号は商品の形態模倣に係るものです。原告商品の最初の販売開始から3年以内の行為という制限はありますが、形態を模倣していれば原告商品について周知性等は必要ありません。

 被告商品1及び2については、それぞれ以下のとおり認定されています。

被告商品1:原告商品が備える形態①ないし⑦を備え,(ⅰ) カップ部の中央に約2cmのリボンがない点(以下「相違点①」という。)及び(ⅱ) 左右の前身頃を構成する3枚の生地のうち最下部にある生地がレース生地からなる点(以下「相違点②」という。)が原告商品と異なる

被告商品2原告商品が備える形態①ないし⑤及び⑦を備え,(ⅰ) カップ部の中央に約2cmのリボンがない点(以下「相違点③」という。),(ⅱ) 左右の前身頃を構成する3枚の生地のうち最下部にある生地がレース生地からなる点(以下「相違点④」という。),(ⅲ) 肩紐部及び背部がレース生地からなる点(以下「相違点⑤」という。)及び(ⅳ) 左右の前身頃を連結するホックが上下2か所で4段階である点(以下「相違点⑥」という。)が原告商品と異なる

 形態模倣に該当するかを検討するにあたり問題となるのが形態の相違点ですが、裁判所はその点について、以下のように述べています。

商品の形態を比較した場合,問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても,当該相違部分についての改変の内容・程度,改変の着想の難易,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断した上で,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価されるときには,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。

 それを踏まえた上で各相違点について以下のとおり評価し、被告商品1及び2ともに原告商品と実質的に同一と認定しました。

相違点①原告商品のカップ部の中央に付けられたリボンはごく小さな装飾にすぎず,そのようなリボンを取り外すという改変については,その程度はわずかであり,着想することが困難であるとはいえず,商品全体の形態に与える効果もほとんどないといえる。

相違点②④需要者であるブラジャー又はナイトブラの購入に関心がある一般消費者に対し,原告商品よりもレース生地が比較的多いという印象を与えるにとどまるから,被告商品1の上記部分をレース生地とすることが商品全体の形態に与える効果は小さいといえる。さらに,前記1(2)イのとおり,ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふれた形態であり,上記部分を無地の生地からレース生地に置き換える着想が困難であるともいえない。

相違点⑤ そのレース生地が肩紐部や背部といった比較的注目することが多くないと考えられる部分に用いられており,(中略)この改変が商品全体の形態に与える効果は大きくないというべきである。さらに,前記1(2)イのとおり,ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふ れた形態であり,被告商品2の相違点⑤に係る部分を無地の生地からレース生地に置き換える着想が困難であるとはいえない。

相違点⑥ ホックが4段階であるか3段階であるかの違いにすぎず,ホックを連結する段階数を増やすという改変を着想することは容易であり,そのような改変が商品全体の形態に与える効果は小さいといえる。

 なお、依拠性に関しては原告商品が被告商品より先に販売されていることに加え、「本件全証拠によっても,被告が被告商品1を独自に開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被告は原告商品の形態に依拠して被告商品1を作り出したと推認するのが相当である。」として依拠性を認定しています(被告商品2についても同様)。

 以上より、被告商品1及び2は「原告商品の形態」を「模倣」したものであるとして、被告が被告商品を販売する行為は、2条1項3号の不正競争行為に該当すると判断されました。

損害賠償について

 本事件においては、侵害者(被告)が侵害行為により受けた利益の額(5条2項)を基に損害額が算出されています。被告商品1の売上が1億5794万円、被告商品2の売上が1億4254万5320円であり、うち被告商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費である商品原価、カード決済料金、送料原価が控除された残りが被告の利益額となり、そこに弁護士費用(被告利益額の1割)が加えられた合計2億0274万5063円が最終的な損害額とされました(なお、広告費、人件費、販売システム費用は被告各商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費とは認められておりません)。

2条1項3号の形態模倣に関しては3年という時間的制限があり、この期間が妥当であるかという部分には議論があります。確かに販売差し止めをするには判決が出るまでに3年が経過している可能性が高く、侵害行為の期間が長くても3年ということを考えれば損害賠償額もそこまで高額にならないのではないかという点が気になっておりました。しかし、本事件では被告行為の期間が実質的に約1年にも関わらず2億円を超える損害賠償が認められており、想像以上の高額賠償であることに少々驚いております。3号の形態模倣を甘く見てはいけないなという事案かと思います。

服部京子

服部京子