( 商標登録第5040036号)
上の「SHI-SA」商標について、新たな知財高裁の判決が出ましたので紹介したいと思います。今回紹介する事件は、プーマ社が「SHI-SA」商標に対して登録無効審判を請求したところ、特許庁は、「SHI-SA」商標の登録を維持する審決(棄却審決)をしたため、プーマ社がこれを不服として知財高裁に対して審決の取消訴訟を提起したものです。
「SHI-SA」商標については、過去にも知財高裁で登録の有効性が争われました。過去の判決(平成21 年判決)において、知財高裁は、「SHI-SA」商標の取消決定を取り消す(「SHI-SA」商標の登録は有効である)、との判断を下しました(平成20 年( 行ケ) 第10311 号)。この事件では、「SHI-SA」商標と、下の表の引用商標にある文字と図形とがセットになった「PUmA」商標とが類似するか否かが争われました。詳細な理由は省略しますが、平成21 年判決において、「SHI-SA」商標と「PUmA」商標とは、外観・観念・称呼において異なり、同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから、両商標は非類似である、とされました。
このように、平成21 年判決では、「SHI-SA」商標は商標法第4条1項11 号に違反して登録されたものでないことが示されています。
これに対して、今回の判決(平成31 年判決)では、「SHI-SA」商標が商標法第4条1項7号に違反して登録されたものか否かが争点とされました。プーマ社は、他の関連する4つの商標(計5商標)について審決取消訴訟を提起したところ、知財高裁は、文字と図形とがセットになった商標については登録維持、図形のみの商標については登録無効との判断をしました。
各事件において登録の有効性が争われた商標と結論については下の表をご参照ください。
以下、全文を引用すると長くなってしまうため、「H29( 行ケ) 第10203 号」(表の1番目)と「H29( 行ケ)第10206 号」(表の4番目)の知財高裁の判断を抜粋して引用します。
簡単にまとめると、前者の事件では図形部分の共通点があるとしても文字部分によって本件商標と引用商標とは区別しうるものであると判断されました。これに対して、後者の事件では図形の共通点と、引用商標の著名度とが考慮されて出所混同が生じうるとされました。
■H29(行ケ)第10203号
・本件商標と引用商標の対比
ア 外観
本件商標と引用商標とは、「SHI – SA」又は「PUmA」の文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通しているものの、両商標において最も大きな構成部分である「SHI ‐ SA」又は「PUmA」の文字部分の文字数、使用されている文字、ハイフンの有無が異なることや、上記文字部分の下の2段にわたる文字部分の有無が異なること等からすると、両商標の外観は、その違いが明瞭に看て取れるのであって、相紛れるおそれはないものである。
イ 観念について
本件商標の動物図形部分からは直ちに特定の動物を想起し得るものではないが、上記動物図形部分の左方に配された「SHI ‐ SA」の文字列部分は「シーサ」、「シ・サ」、「シサ」と呼称し得るものであり、また、上記文字列部分「SHI ‐ SA」の下方に配された「OKInAWAn ORIgInAL」の文字列部分からは「沖縄のオリジナル」の意味を、同様に下方に配された「gUARDIAn ShIShI-DOg」の文字列部分からは「保護者」、「獅子犬」の意味をそれぞれ読み取ることができ、かつ「OKInAWAn ORIgInAL」と「gUARDIAn ShIShI-DOg」の文字列は二段書きされたひとまとまりのものである。これらのことに、上記動物図形部分の形状も考え合わせると、上記動物図形部分は、沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」(甲14、33)が跳躍する様子を側面から見たものと理解することができる。
したがって、本件商標からは、沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じると認められる。
引用商標には「PUmA」と大きく表記されており、上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物図形と相まって、動物の「ピューマ」の観念が想起される。
また、引用商標は、ドイツのスポーツシューズ、スポーツウェア等のメーカーであるプーマ社の業務を表す「PUMA」ブランドの商標として著名であり(甲2の1・2、甲24の1~26・28~42、甲25の1~11・17~68・70~76、弁論の全趣旨)、引用商標からは「PUMA」ブランドの観念も生じる。
したがって、本件商標からは沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じ、引用商標からはネコ科の哺乳類「ピューマ」又は「PUMA」ブランドの観念が生じるから、両商標は観念を異にする。
ウ 称呼について
本件商標からは沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じることからすると、本件商標からは「シーサー」又は「シーサ」の称呼が生じる。引用商標からは、「PUmA」の文字から、「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じる。したがって、本件商標と引用商標は、称呼を異にする。
・本件商標と引用商標とは類似せず、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないから、本件商標について、引用商標の顧客吸引力にただ乗りし、その出所表示機能を希釈化させ、又はその名声を毀損させるおそれがあるとか、そのような不正の目的をもって出願されたということはできない。したがって、本件商標の登録が商道徳に反するとか、国際的な信頼を損なうということもできない。
・本件商標の図形は、「シーサー」の本来の特徴とは異なる、引用商標の図形の印象に近い点があるものの、「シーサー」の本来の特徴を備えている点も多く見られるのであって、前記のとおり、本件商標と引用商標は全体として類似していないことも考え合わせると、被告が引用商標の顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で本件商標を採択したと認めることはできない。
・よって、本件商標について、その商標の登録を社会的に許容すべきでないといえるだけの反社会性があるとは認められないから、商標法4条1項7号に該当すると認めることはできない。
■ H29( 行ケ) 第10206 号
・本件商標について
ア 外観
本件商標は、二つの耳がある頭部を有し、頭部と前足の間に間隔がなく、一部が丸まった大きな尻尾を有する四足動物が、右から左に向かって、跳び上がるように、頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で、前足と後足を前後に大きく開いている様子を、側面から見た姿でシルエット風に描いた図形である。この図形の内側には、概ね輪郭線に沿って、白い線が配されているほか、口の辺りに歯のような模様、首の周りに飾りのようなギザギザの模様、前足と後足の関節部分や尻尾にも飾り又は巻き毛のような模様が、白い線で描かれている。尻尾は、全体として丸みを帯びた形状で、先端が尖っている。
イ 観念
本件商標から、四足動物を想起し得るが、直ちに特定の動物を想起し得るものではなく、何らかの四足動物という観念は生じるものの、それ以上に特定された観念は生じない。
ウ 称呼
本件商標から、四足動物を想起し得るが、直ちに特定の動物を想起し得るものではなく、特定の称呼は生じない。
・引用商標について
ア 外観
引用商標は、二つの耳がある頭部を有し、頭部と前足の間に間隔があり、全体に細く、先端が若干丸みを帯びた形状となった、右上方に高くしなるように伸びた尻尾を有する四足動物が、右から左に向かって、跳び上がるように、頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で、前足と後足を前後に大きく開いている様子を、側面から見た姿で黒いシルエットとして描いた図形である。
イ 観念
引用商標は、平成15年1月17日に商標登録されたものであるところ、原告は、その登録以前から、Tシャツに引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲8の1)、帽子を掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きしてその内部に横線を配した図形を記載したり(甲8の3・5)、Tシャツを掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きにした図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲8の4)などしており、その登録後も、スポーツウェアや帽子に引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲9の1・3・4、甲31の1・3・4、甲32の1・3・4)、それらの雑誌の広告には引用商標と同様の形の図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲9の1・4、甲31の1・3・4、甲32の1・3・4)などしており、これらに弁論の全趣旨を総合すると、引用商標は、本件商標の登録出願時(平成20年4月12日)及び登録査定時(平成23年1月11日)において、原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服、帽子等を表示する商標の一つとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたことが認められる。
したがって、引用商標からは「PUMA」ブランドの観念が生じる。
ウ 称呼
引用商標からは、「プーマ」の称呼が生じる。
・本件商標と引用商標の対比
本件商標と引用商標は、そのシルエット、内部に白線による模様があるかなどにおいて異なるが、全体のシルエットは、似通っており、本件商標において、内部の白い線の歯のような模様、首の回りの飾りのような模様、前足と後足の関節部分の飾り又は巻き毛のような模様及び概ね輪郭線に沿って配されている白い線がシルエット全体に占める面積は、比較的小さい。
したがって、本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの、外観全体の印象は、相当似通ったものであるということができる。
また、前記イ及びウのとおり、本件商標と引用商標は、本件商標からは何らかの四足動物の観念が生じ、特定の称呼は生じないが、引用商標からは、「PUMA」ブランドの観念と「プーマ」の称呼が生じる点で異なっているところ、本件商標から何らかの四足動物以上に特定された観念や、特定の称呼が生じ、それが引用商標の観念、称呼と類似していない場合と比較して、その違いがより明確であるということはできない。
前記(2) イのとおり、引用商標は、原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服、帽子等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたものである。
また、本件商標は、「Tシャツ、帽子」を指定商品とするところ、前記(2) イのとおり、「PUMA」ブランドの商品としても、Tシャツ、帽子が存在し、引用商標と同様の形の図形を付した商品も存在していたのであるから、本件商標の指定商品は、原告の業務に係る商品と、その性質、用途、目的において関連するということができ、取引者、需要者にも共通性が認められる。
さらに、本件商標の指定商品である「Tシャツ、帽子」は、一般消費者によって購入される商品である。
これらの事情を総合考慮すると、本件商標の指定商品たるTシャツ、帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、本件商標を指定商品に使用したときに、当該商品が原告又は原告と一定の緊密な営業上の関係若しくは原告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。
したがって、本件商標には、商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるといえる。