平成29年(ワ)第8272号 損害賠償等請求事件
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/911/088911_hanrei.pdf
別紙1:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/911/088911_option1.pdf
別紙2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/911/088911_option2.pdf
別紙3:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/911/088911_option3.pdf
◆事案の概要
本件は、そうめん流し器の意匠(本件登録意匠)に係る意匠権を有する原告が、被告の販売するそうめん流し器(被告商品)の意匠(被告意匠)は本件登録意匠に類似し、被告の行為は原告の意匠権を侵害するため、被告商品の販売等の差止・廃棄、損害賠償を請求した事案です。
被告は、本件登録意匠が、原告が本件登録意匠の出願前に販売していた商品(原告旧商品)の意匠に類似するため登録は無効との反論も行いましたが、裁判所は、本件登録意匠と原告旧商品の意匠は非類似とする一方、被告意匠とは類似するとして、原告の損害賠償請求を認めました。
◆本件のキーワード
「ウォータースライダー型」:流しそうめん器のうち、上部から下部のトレイ部に流すためのレール部を有するもの。
「流水プール型」:流しそうめん器のうち、レール部を有さず、上面が開口したトレイ部の中央に回転器を配置することによりプール部を形成しているもの。
【参考図】(本件登録意匠)
すなわち、そうめん流し器の種類として、そうめんがレールを流れてくるもの(ウォータースライダー型)と、そうめんがトレイの中で回転器によってぐるぐる回っているもの(流水プール型)、の2種類が以前より知られていた、というところでしょうか。
◆裁判所の判断
「ウォータースライダー型」と「流水プール型」の両方の形状を有するそうめん流し器は、本件登録意匠以前は見られなかったところ、需要者はそうめん流しを楽しむ一般消費者であり、そうめんがどのように流れるかに着目するため、レール部と、トレイの中のプール部が着目され、これらの機能を併せ持った形態が本件登録意匠の要部であると判断されました。
原告旧商品の意匠は「ウォータースライダー型」であるため、被告による新規性欠如の主張は認められず、また、被告意匠は「ウォータースライダー型」と「流水プール型」の機能を併せ持った形態の点で本件登録意匠と共通し、差異点はこの共通点を凌駕するものではないとして、両意匠は類似すると判断しました。
以下、裁判所の類否についての判断部分を引用します。
「イ 本件登録意匠の要部について
被告意匠も,水路部のレール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成るものであり(基本的構成態様A,C,D),この点で本件登録意匠と被告意匠は共通する。この共通点により,両意匠とも,ウォータースライダー型及び流水プール型の各そうめん流し器を別個独立に捉えた場合とは異なる新規な構成を有するという印象を生じる。
ウ 本件登録意匠の要部以外の部分について
( ア) 意匠全体に対して物理的に大きな割合を占めるだけでなく,需要者が関心を持つレール部の形態については,被告意匠の構成態様は,ヘアピンカーブ状に湾曲後に僅かに凹弧状に湾曲しているか否かを除けば,本件登録意匠の構成態様と共通する(具体的構成態様G)。
このうち,共通点は,意匠全体に対して占める物理的な割合が大きいことから,原告旧商品意匠のレール部の形態と同様の形態であるといっても,全体の印象に与える影響は大きいといえる。
他方,差異点は,かなり注意を払わなければ認識し難いほどに僅かな差異であり,全体の印象に与える影響は小さいといえる。
( イ) 需要者が関心を持つトレイ部内部の形状については,被告意匠の構成態様は,回転器の上面の凹陥部の形状を除けば,本件登録意匠の構成態様と共通する(具体的構成態様I)。
このうち,共通点は,トレイ部内部の形状の中でも需要者が特に関心を持つと考えられるそうめんが流れる流路の形状についてのものであることから,流水プール型のそうめん流し器に係る前記各公知意匠と同様の形状であるといっても,全体の印象に与える影響は大きいといえる。
他方,差異点は,意匠全体に対して占める物理的な割合は小さいことから,全体の印象を左右するほどのものとはいえない。
( ウ) そのほか,被告意匠には,①トレイ部の外形状(基本的構成態様D),②水路20 部の上端部分における吐水口部分の形状(具体的構成態様F)及び③トレイ部における左方基端部の中央支柱が接続するブロック材状部材の嵌装の有無(具体的構成態様I)において,本件登録意匠と差異がある。
このうち,①については,本件登録意匠及び被告意匠のいずれにおいても,真上から見た場合には水路部上端部分の皿状部材にその大部分が隠れる位置関係にあるとともに,トレイ部内部のそうめんが流れるトラック形部分の壁面を構成しない左方部分における差異であるから,流しそうめんを楽しむ際に需要者がさほど関心を向けない部分といえる。また,③については,トレイ部内部のそうめんが流れる部分に隣接するものの,そうめんの流れと直接的に関わるものではないことなどから,需要者がそうめん流しを楽しむ際に必ずしも関心を向けない部分である。これらのことから,①及び③の各差異点は,いずれも全体の印象に与える影響は小さいといえる。
他方,②については,そうめんを流すための水が吐出される部分であり,そうめんを流す際に必然的に需要者が目にする部分ではある。しかし,当該部分が意匠全体に対して物理的に占める割合は必ずしも大きくはなく,また,需要者がそうめん流しを楽しむに当たって吐水口部分の形状に強い関心を持つとも思われない。したがって,②の差異点は,全体の印象に大きな影響を与えるものではない。
オ 以上の点を踏まえると,両意匠は要部を共通にし,需要者に対し,本件登録意匠の意匠登録出願前に存在したウォータースライダー型及び流水プール型のそうめん流し器とは異なり,両者を組み合わせた新たなタイプのそうめん流し器であるという共通の印象を与えた上で,全体的に同様の形状をも備えているという印象を強く与えており,このような印象が前記差異点のもたらす印象により凌駕されるものである。」
以上