ホルダー付き歯科用ブロック事件【意匠判決紹介】

令和2年(行ケ)第10136号 審決取消請求事件

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/435/090435_hanrei.pdf

■事件の概要

 原告は、令和元年5月30日、意匠に係る物品を「ホルダー付き歯科用ブロック」(以下「本願物品」という。)とする意匠登録出願(意願2019-11883号)をしましたが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判(不服2020-2827号)を請求しました。そして、令和2年10月14日付で拒絶審決がなされたため、本件審決取消訴訟を提起しました。

■審決の理由の要旨

 本願物品の属する分野において,引用意匠1及び引用意匠2が本願出願前から公然知られていた。本願部分は、引用意匠1のシャフト部及びフランジ部の凹陥の位置を、引用意匠2にみられるように左側面視12時、3時、6時の位置としたのにすぎないから、本願意匠は、当業者が公然知られた形態をほとんどそのままか、あるいは、ありふれた手法によって改変を施した程度のものであって、容易に意匠の創作ができた(意匠法3条2項)。

 

意匠表

 

■裁判所の判断

「「ホルダー付き歯科用ブロック」の分野において,ホルダーを,水平に配置した略円柱状のシャフト部の末端を略円板状のフランジ部の面中央に直交させたものとし,シャフト部先端の周縁をテーパー状に面取りし,左側面視3時と9時の位置に略矩形状の凹陥を2つ設け,周側面を横に3等分した真ん中を周方向に端面視略さじ面状に切り欠いて円環状の浅溝を形成し,フランジ部はシャフト部の凹陥と同じ配置(左側面視3時と9時の位置)に,フランジ部の右端近くまで切り欠いた略矩形状の凹陥を2つ設けたものが,本願出願前から公然知られており(引用意匠1),また,シャフト部の凹陥を左側面視12時,3時,6時の位置としフランジ部も同じ位置で切り欠いたものも,本願出願前から公然知られていた(引用意匠2)。

そうすると,本願部分は,引用意匠1のシャフト部及びフランジ部の凹陥の位置を,引用意匠2にみられるように左側面視12時,3時,6時の位置としたのにすぎないから,本願意匠は,当業者が公然知られた形態をほとんどそのままか,あるいは,ありふれた手法によって改変した程度のものであり,また,それによって新たな美観を生み出したといった事情も認められないから,容易に創作し得たといえる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。」

■雑感

 令和元年意匠法改正により、関連意匠の出願可能期間は、基礎意匠の出願から10年を経過する日前までとなりました。

本件について、もし引用意匠1を基礎意匠とする関連意匠として再出願したらどうなっていたかと考えてみました。しかし、本件は拒絶理由が3条1項3号ではなく、また、過去の登録例でも切り欠きの数や位置が違う意匠は非類似の判断となっているため、関連意匠の要件を満たさないと判断され、やはり本件の引用1と2により創作容易という判断になったのであろうと考えます・・・。(話が少しずれてしまいますが、法改正前は10条1項拒絶の場合は関連意匠でなくす補正をすれば解消しましたが、基礎意匠の登録公報が出た後も関連意匠出願が可能となったため、関連意匠でなくす補正をすることで、基礎意匠が創作容易の引例になる可能性もあるのだと思いました。)

 本件では難しかったと考えますが、法改正前に自己の登録意匠を引例として拒絶査定となった意匠について、場合によっては現在の関連意匠制度を利用して再出願の検討もできるのではないかと考えます。

徳永弥生

徳永弥生