自動精算機事件【意匠判決紹介】

令和元年(ワ)第16017号 意匠権侵害行為差止請求事件

【事案の概要】

「自動精算機」についての部分意匠の意匠権を有する原告が、被告のタッチパネル式の券売機(「被告製品」)の製造・販売等は原告の意匠権を侵害するとして、その差し止め等と、損害賠償金の支払いを求めた事件です。

裁判所は、本件意匠と被意匠は類似しないと判断し、原告の請求を棄却しました。

 

 

【主な争点】

被告意匠は本件意匠と類似するか。

 

【裁判所の判断】

(1)本件意匠と被告意匠の構成態様

ア 本件意匠

(基本的構成態様)

上方を後方に傾斜させたタッチパネル部の正面部分であり,ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形状である。

(具体的構成態様)

A タッチパネル部の縦と横の比が概ね1.5対1となっている。

B ディスプレイ周囲のケース部分は,ディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部で構成されている。

C ケース部分の外枠部は,正面視及び斜視において,内枠部の外縁から外枠部の外縁に向かって傾斜する傾斜面となっている

D ケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の 幅及び右側部分の幅の概ね4倍の幅広に形成されている

イ 被告意匠

(基本的構成態様)

上方を後方に傾斜させたタッチパネル部の正面部分であり,ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形状である。

(具体的構成態様)

a タッチパネル部は,縦と横の比が概ね1.2対1となっている。

b ケース部分は,ディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,ケース部分の上下左右の幅が全て等しくなっている。

ウ 本件意匠と被告意匠の対比

本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は一致する。

本件意匠と被告意匠は,具体的構成態様について,①本件意匠はタッチパネル部の縦と横の比が概ね1.5対1となっているのに対し,被告意匠はタッチパネル部の縦と横の比が概ね1.2対1となっている点,②本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していない点③本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような傾斜面を全く有していない点④本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも概ね4倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅がすべて等しくなっている点で差異がある

(2)本件意匠及び被告意匠におけるタッチパネル部と筐体との関係

本件意匠の物品である自動精算機等においては,筐体の一部にディスプレイが設けられているもの(公知意匠1)が知られるなどしていて,タッチパネル部の全体が筐体の内部にあるかタッチパネル部が筐体の上端部から一定程度突出しているか否かは,タッチパネル部の基本的な位置といえるものであり,その位置の違いは,タッチパネル部の美感にも影響を与える場合もあり得るといえる。もっとも,この点について本件意匠と被告意匠の違いはなく,本件において位置の違いにより美感の違いがもたらされることはない。

また,上記イに記載した形状のうち,本件意匠ではタッチパネル部の横幅と破線で記載された筐体の横幅の比は概ね1対1.4であり,被告意匠のタッチパネル部の横幅と筐体の横幅の比は概ね1対1.5である。タッチパネル部が実線で記載され,筐体が破線で記載されている本件において,タッチパネル部の横幅と筐体の横幅の比の違いは基本的にはタッチパネル部の美感に影響を及ぼさないと解すべきであり,また,その比が極めて異なる場合にその比の違いがタッチパネル部の美感に影響を与える場合が仮にあるとしても,本件では,この比についての本件意匠と被告意匠の違いは小さく,この違いはタッチパネル部の部分意匠の類否に影響を与えるものとはいえない。さらに,タッチパネル部が実線で記載され,筐体が破線で記載されている本件において,タッチパネル部が筐体の上部右側に設けられるか左側に設けられるかや,タッチパネル部が基台上に設けられているか否かの差異は,タッチパネル部の部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではないとするのが相当である。

以上によれば,本件においては,本件意匠と被告意匠との間において,類否判断に影響を及ぼす位置等の違いはないと認められる。

(3)公知意匠と意匠の要部の特定

本件登録出願前に,自動精算機又はそれに類似する物品において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形状である意匠,ディスプレイ部の縦と横の比が概ね1.5対1である意匠,ディスプレイ部のケース部分がディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部で構成されている意匠は知られていたといえる。

これらによれば,自動精算機を購入する需要者にとり,本件意匠の基本的構成態様や具体的構成態様A,Bが,特に注意を惹きやすい部分であるとはいえない。そして,このことを考慮すれば,具体的構成態様C,Dは,本件意匠においては,本件図面において実線で示されている部分の中では一定の大きさを占めているといえるものでもあり,注意を惹きやすい部分であるというべきである。

(4)本件意匠と被告意匠の類否

本件意匠と被告意匠の差異点③本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような傾斜面を全く有していない点,④本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも略4倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅がすべて等しくなっている点は,本件意匠の具体的構成態様C,Dに係る部分の違いであり,②本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していない点は,具体的構成態様Dの前提となる構成自体が異なるというものであるそれらの違いは,特に注意を惹きやすい部分であるとはいえない基本的構成態様が共通することから受ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠は,全体として,異なった美感を有するものであり,類似しないと認められる

以上

 

徳永弥生

徳永弥生