Re就活事件【商標判決紹介】

平成30年(ワ)第11672号 商標権侵害差止等請求事件(大阪地方裁判所)

判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/994/089994_hanrei.pdf

原告 株式会社学情

被告 一般社団法人履修履歴活用コンソーシアム

〔事件の概要〕

本件は、商標「Re就活」(登録第4898960号、以下、「本件商標」)を保有する原告が、「リシュ活」(以下、「被告使用商標1」)等を表示して求職者に求人企業の情報の提供や、求人企業から求職者に対して電子メール(オファーメッセージ)を送信することができるサービス等を提供していた被告に対し、商標権侵害に基づく差止め請求を起こしたものです。

両商標は特許庁では「非類似」と判断されて併存登録されているものの、本件では「類似」と判断されて、商標権侵害を認めました。

本件では役務の類否や損害の発生・損害額等も争点となりましたが、今回は本件商標と被告使用商標1が類似と判断された理由に着目して本件を紹介します。

なお、被告は控訴手続きを行っております。

(被告ウェブサイト [https://risyu-katsu.jp/news/1109/]より。)

〔本件商標と被告標章の類否判断〕

 本件商標:「Re就活」(標準文字)

 被告使用標章1「リシュ活」

(1)本件商標の外観・称呼・観念について

本件商標に関する裁判所の判断は以下の通りです。

 

(2)被告標章1の外観・称呼・観念について

被告標章1に関する裁判所の判断は以下の通りです。

 

(3)本件商標と被告使用商標1との対比

まず、外観については「本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており,カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾のの一文字のみが共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから,外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。」と判断。

次に、観念についても、「被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が 同一又は類似ということはできない。」と判断。

しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合,同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。」と判断しました。

称呼が「極めて類似する」と判断された背景には、本件の取引の実情が大きく関係しています。

本件の取引の実情とは、被告の役務の需要者が、新卒の求職者を採用するために広告や勧誘メッセージの送信を希望する「求人企業」だけでなく、「就職を希望する学生」も含まれるということです。

このように判断された理由としては、被告の役務は、大学等での履修履歴・成績などを登録した者を対象としたウェブサイト上での求人情報等の提供アプリ上で求人企業からのオファーメッセージの送受信等を内容とするものですが、履修履歴データベースへの履修履歴成績等の登録は,株式会社大学成績センターのウェブサイトにおいて行われており,同サイトでは,学生用であることが明示されていることが認められるから,被告役務は,基本的に大学等に在学中の者の利用が想定され,履修履歴データベースへの登録を前提とする被告役務の利用者も,大学等に在学中の者が想定されていると判断しました。

その上で、裁判所は、求人企業との関係においては、「求人に係る媒体の事業者が多数ある中で,どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。」と判断しました。

一方,求職者との関係については、求人情報ウェブサイトにおいては無料で登録できることや、現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることなどから、「求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。

そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。」と判断し、商標権侵害を認定しました。

〔コメント〕

本件が提起されたときのニュースを見たとき、パッと見た感じでは「『Re就活』と『リシュ活』は非類似ではないのかな」と思っていたので、商標権侵害の判断が出たときにはその判断理由がとても気になりました。

本件では、「求人企業は求人情報を掲載してもらうに際し費用を投下するので慎重に検討して会社を選ぶから本件商標と被告標章1の間では出所の混同は生じない」けど、一方で「求職者(主に学生)は事前に精査の上会員登録するわけではないから、求職者との関係では本件商標と被告標章1の間で出所の混同が生じる」と判断したことになります。

この点、みなさんはどのように感じられますか?

確かに、企業はお金を払って求人情報を載せてもらうので学生よりは慎重に検討すると思いますが、無料で登録できることや就活時に複数登録すること等をもって「事前に精査の上会員登録するわけではない」と認定し、称呼重視の理由に挙げるのが無理があるのではないかと感じました。

また、原告・被告の役務がインターネット上で提供されており、検索時に正確な表記ではなくてもあいまいな表記による検索にも対応できることも称呼重視の理由として挙げられていますが、商標の類否判断がインターネットの検索機能で左右されるようにも感じ、疑問を感じました。

モヤモヤが残る判断だったので、第二審での判断が気になるところです。

清水三沙

清水三沙