「トレーニング機器」事件 【意匠判決紹介】

平成29年(ワ)第5108号 意匠権侵害差止等請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/159/089159_hanrei.pdf

 

■事案の概要
本件は、原告が意匠権を有している「トレーニング機器」の登録意匠(以下「本件意匠」)について、被告が、これと類似する意匠(以下「被告意匠」)を用いてトレーニング機器(以下「被告商品」)を製造・販売しており、原告の意匠権の侵害にあたると主張して、被告商品の製造・販売等の差止め等と損害賠償等の支払いを求めた事案です。

裁判所は、本件意匠と被告意匠は非類似と判断し、原告の請求を棄却しました。

本件意匠に係る物品及び被告商品は、いずれも腹筋を引き締める用途に使用するトレーニング機器です。

 

本件意匠及び被告意匠

■主な争点
本件意匠と被告意匠との類否

 

■裁判所の判断
両意匠の類否について、まず、要部における共通点と差異点を、以下のように認定しました。

「要部について本件意匠と被告意匠が共通するのは,前記⑴ア(基本的構成態様)の①(本体シート状,6枚のパッド片),②(2列3段,左右対称),③(略円形上の操作部)及び④(パッド背面の電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。」

「要部における本件意匠と被告意匠との差異点は,前記⑴ア(基本的構成態様)の⑤(パッド片の結合)及び⑥(左右対称か上下対称か),並びに前記⑴イ(具体的構成態様)の③(上段,下段パッド片の形状,傾斜),④(中段パッド片の形状,傾斜),⑤(上下の切込みの形状,深さ)及び⑥(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)」

そして、以下の通り、本件意匠は躍動感や力強さを感じさせる機械的・幾何学的な意匠であるのに対し、被告意匠は自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽快な印象を与える意匠であって、その美感の差異は大きく、要部における共通点を上回り、全体として両者が需要者に与える美感は異なるとして、両意匠は非類似であると判断しました。

「本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられていることから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりとした印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。

 各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るものであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそのような印象を受けることはない。」

「被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲している上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であって,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽快な印象を与える。

 特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよう配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本件意匠にこのような要素はない。」

 

■被告意匠に係る無効審判請求
被告は被告意匠について意匠登録をしており、原告はそれに対し平成 30 年 2 月 28 日に本件意匠を引例とする無効審判を請求しましたが、特許庁は、両意匠は非類似であるとして請求不成立の審決をしました。また、その審決取消訴訟においても原告の請求は棄却され、令和元年 10 月 11 日に上告不受理決定により審決は確定しました。

以上

徳永弥生

徳永弥生