ツイッター・リツイート事件 【著作権判決紹介】

最高裁 平成 30 年(受)第 1412 号 発信者情報開示請求事件
令和 2 年 7 月 21 日 第三小法廷判決

 

今月紹介する事件は、ツイッターでリツイートされた画像の一部が自動的に切り取られることが著作権侵害に該当するかどうかが争われた事件の最高裁判決で、リツイートされた際に著作者の氏名が切り取られたことに対し「著作者の氏名を表示する権利を侵害した」との判断を示した事件です。

 

【事件の概要】
写真家である X(被上告人、第1審原告)が、Xの著作物である写真(以下、「本件写真」)が無断でツイッターに投稿されたことにより、本件写真に係るXの氏名表示権などが侵害されたとして、ツイッタージャパン及び米国ツイッター社(上告人、第1審被告)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づき、投稿にかかる発信者情報の開示を求めた事案です。
本件では、特に、リツイートされた際に画像の一部が自動的に切り取られた結果Xの氏名が表示されなくなったことが、著作権侵害に該当するのかどうかが争われました。

 

【著作権侵害が問題となった画面】
本件写真は、X が自己のウェブサイトに掲載した写真で、ツイッター上で表示されたのは、以下の3つの場面です。

①投稿者のツイッター上のアカウントにおいて無断で本件写真プロフィール画像として用いられ、その後当該アカウントのタイムライン及びツイートにも表示

②投稿者により無断で画像付きツイートの一部として用いられ、そのアカウントのタイムラインにも表示

③さらに無断で②のツイートのリツイートがされ、リツイート者のアカウントのタイムラインに表示。なお、リツイート者らのリツイートに本件写真が表示されるのは、タイムラインのウェブページに上記②のツイート画像ファイル保存へのインラインリンクが自動的に設定されるためである。
また、リツイートの際、本件写真は画像の上部及び一部がトリミング(一部切除)された形となっており、Xがウェブサイトに掲載した際には表示されていたXの氏名が表示されなくなっていた。

 

【第1審及び最高裁の判断のまとめ】
詳細な判断を紹介する前に、どの部分が争点になったのかを把握しやすいように第1審・原審・最高裁の判断を、簡単にまとめました。
本件では、「投稿者」と「リツイート者」に大きく分けて判断がなされており、最高裁まで争ったのは、リツイート者に対する著作権侵害の成否になります。

【投稿者の著作権侵害の成否】
投稿者のプロフィール画像設定行為及びタイムラインへの表示並びにツイート行為がXの公衆送信権を侵害することは当事者間に争いはなく、第1審においては争いのない公衆送信権侵害を理由に損害賠償請求権などを行使し得るとして、Xの発信者情報の開示請求権を認めました。
また、原審では、リツイート者と同様に、改変されてXの氏名が表示されなくなった画像については、同一性保持権・氏名表示権の侵害も認定しました。

【リツイート者の著作権侵害の成否】
まず、第1審では、本件写真の画像がリツイート者のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイムラインのURLにリンク先であるURLへのインラインリンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためとし、リツイートの仕組み上、リツイート行為により本件写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず、画像ファイルの改変も行われないから同一性保持権は侵害成立しないし、本件リツイート者らから公衆への本件奢侈の提供又は提示であるとはいえないから氏名表示権侵害も成立しない、と判断しました。
さらに、本件リツイート者らからさらに公に伝達したことはうかがわれないとして公衆送信権の侵害も認めませんでした。

一方、原審では、著作権(公衆送信権等)侵害は否定したものの、画像が改変されたことについて同一性保持権の侵害を、改変された結果Xの氏名が表示されなくなったことに対して氏名表示権の侵害を認めました。

そこで、上告人は「①本件各リツイート者は,本件各リツイートによって,著作権侵害となる著作物の利用をしていないから,著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」をしていないし,②本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができることから,本件各リツイート者は,本件写真につき「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(同条2 項)しているといえるのに,本件各リツイートによる本件氏名表示権の侵害を認めた原審の判断には著作権法の解釈適用の誤りがあるというものである」として上告しました。

最高裁では、所論①について、著作権法19条1項(氏名表示権)の「「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。したがって,本件各リツイート者が,本件各リツイートによって,上記権利の侵害となる著作物の利用をしていなくても,本件各ウェブページを閲覧するユーザー の端末の画面上に著作物である本件各表示画像を表示したことは,著作権法19条1項の「著作物の公衆への・・・提示」に当たるということができる。」と判断しました。

次に、所論②については、「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。」と判断し、上告人の所論の点に関する原審の判断を是認しました。

 

【コメント】
「リツイートしただけなのに、著作権侵害になってしまう場合がある」と判断したこの事件、厳しすぎるようにも感じますが皆さんはいかが思われますか?
特に、リツイートした際の画像の一部切り取りがツイッター社の設定によるものであることを考慮すれば、リツイート者には酷な判決にも思えます。

この点について、戸倉裁判長は補足意見で、「ツイッター利用者にとっては,画像が掲載されたツイート(以下「元ツイート」という。)のリツイートを行うに際して,当該画像の出所や著作者名の表示,著作者の同意等に関する確認を経る負担や,権利侵害のリスクに対する心理的負担が一定程度生ずることは否定できないところである。しかしながら,それは,インターネット上で他人の著作物の掲載を含む投稿を行う際に,現行著作権法下で著作者の権利を侵害しないために必要とされる配慮に当然に伴う負担であって,仮にそれが,これまで気軽にツイッター を利用してリツイートをしてきた者にとって重いものと感じられたとしても,氏名表示権侵害の成否について,出版等による場合や他のインターネット上の投稿をする場合と別異の解釈をすべき理由にはならないであろう。」と述べております。

また、「そもそも,元ツイートに掲載された画像が,元ツイートをした者自身が撮影した 写真であることが明らかである場合には,著作者自身がリツイートされることを承諾してツイートしたものとみられることなどからすると,問題が生ずるのは,出所がはっきりせず無断掲載のおそれがある画像を含む元ツイートをリツイートする場合に限られる。」とも述べています。
この補足意見については、納得できます。
リツイート時に画像の一部が切り取られること自体に対してはツイッター社の今後の対応が必要になると思われますが、いずれにしても著作物の利用に対しては細心の注意が必要であることを示唆した判決といえると思います。

清水三沙

清水三沙