平成29 年( ワ) 第31572 号 不正競争行為差止等請求事件(東京地裁)
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/794/088794_hanrei.pdf
みなさん、ISSEY MIYAKE の「BAOBAO」というカバンをご存知でしょうか?これだけ聞いてもピンとこないという方も、実物を見れば「知ってる!」となるのではないかと思います。今では様々な形状のものが出ているので、比較的ベーシックなものをひとつ。
(https://www.baobaoisseymiyake.com/shop/baobaoisseymiyake/item/view/shop_product_id/350/color_id/1066)
今回取り上げる事案は、当該ブランドのデザイン事務所及びその子会社であるブランドの運営会社が、BAOBAO の鞄の形態が不正競争防止法2 条1 項1 号の商品等表示であると主張し、被告行為の差し止め等を求めたものです。併せて、原告商品の著作物性についても主張しています。なお、上記BAOBAO は参考に掲載したもので、原告商品については、判決において明示されておりません。
争点
(1) 不正競争行為の有無
ア 原告商品の形態は商品等表示に該当するか(争点1)
イ 原告商品の形態は周知ないし著名か(争点2)
ウ 被告商品の形態は原告商品の形態と類似して混同のおそれがあるか(争点3)
(2) 著作権侵害行為の有無
ア 原告商品1ないし6に著作物性が認められるか(争点4)
イ 原告らが原告商品1ないし6の著作権者であるか(争点5)
ウ 著作権(複製権又は翻案権)侵害の成否(争点6)
(3) 本件ブランドに係る価値の毀損による損害賠償請求権の存否(争点7)
(4) 原告らの損害額(争点8)
今回は、このうち特に争点1、3、4についてみていきたいと思います。
原告商品の形態は商品等表示に該当するか(争点1)について
本事案も商品形態の商品等表示が問題となっており、これについては何度も取り上げていますが、改めて裁判所の説示を見たいと思います。
商品の形態は,通常,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は宣伝広告や販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には,商品の形態自体が,一定の出所を表示するものとして,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあるといえる。
今回認定された、下記原告商品の形態(本件形態1´)は、これまでの事案と少し違った態様のものであり、様々な形態を想定できるものとなっています。
① 中に入れる荷物の形状に応じて,鞄の構成部分であるピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき,荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形する(以下「本件特徴①」という。)。
②上記①の外観を持たせるため,鞄の生地に無地のメッシュ生地又は柔らかい織物生地を使用し(以下「本件特徴②」という。),
③「 その上にタイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置する」という特徴(以下「本件特徴③ ´」という。
さて、この形態の特徴(特別顕著性)について、以下の通り認めた上で、
メッシュ生地又は柔らかな織物生地に,相当多数の硬質な三角形のピースが,2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置されることにより,中に入れる荷物の形状に応じてピースに覆われた表面が基本的にピースの形を保った状態で様々な角度に折れ曲がり,立体的で変化のある形状を作り出す。一般的な女性用の鞄等の表面は,布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか,あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないことからすれば,原告商品の形態は,従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。
荷物を入れた状態の特徴となる本件特徴①についても、以下の通り本件形態の特徴とすることを認めています。
鞄を荷物を入れるという通常の用途に従って使用した場合の形状であり,原告商品の販売の際にも中に物を入れた状態で陳列するなどして(後記 ),そのような使用時の形状が分かるように,あるいは使用時にそのような形状が現れることを強調して販売され,需要者もその形状を認識していたか認識することが容易にできたというものである。これらからすると,本件において,本件特徴①を含む本件形態1´ を形態の特別顕著性や周知性,混同の有無を検討するに当たり商品の形態とすることが相当である。
被告商品の形態は原告商品の形態と類似して混同のおそれがあるか(争点3)について
BAOBAO の特徴としては、「直角二等辺三角形」のピースが配置されている点であり、デザイナーにおいてもいろいろなパターンを検討した上で、直角二等辺三角形による形態を採用したようです。一方、被告商品は、三角形のピース(一部四角形のピース)を配置してなるものですが、そのピースは直角三角形ではありません。争点1において、被告は原告商品の形態の特徴として「直角三角形のピース」であると主張していますが、裁判所は、需要者は、「直角二等辺三角形」ではなく、「相当多数の三角形」と認識すると判断し、この主張を退けています。この部分は、争点3にも関係する部分のため、裁判所は需要者の認識について再度以下のように示し、原告商品の形態と被告商品の形態が類似すると認定しています。
需要者は,原告商品の形態を荷物を入れた状態で観察するところ,その状態では,原告商品の表面には凹凸が生じており,原告商品の表面に直角二等辺三角形のピースが規則的に並べられているという点よりも,ピースの継ぎ目が折れ曲り,鞄の表面に,様々な角度に傾いた相当多数の三角形を面とした多様な立体形状が現れる点が,需要者に強い印象を与えるということができる。また,このような表面に凹凸が生じた状態においては,同じ直角二等辺三角形であっても,傾きによって様々な大きさ及び角度の三角形に見えることに加え,継ぎ目が不規則に折れ曲がるため,ピースが規則的に並べられているか否かは需要者に強い印象を与えないといえる。
原告商品1ないし6に著作物性が認められるか(争点4)について
こちらも何度か取り上げている工業製品の著作物性ですが、当判決でも以下説示されています。
実用目的で工業的に製作された製品について,その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴から離れ,その特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものは,「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」ということはできず著作物として保護されないが,上記特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる場合には,美術の著作物として保護される場合があると解される。
これを原告商品について鑑みるに、以下の通りその著作物性は否定されています。
中に入れる荷物に応じて外形が立体的に変形すること自体は物品を持ち運ぶという鞄としての実用目的に応じた構成そのものといえるものであるところ,原告商品における荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることによってさまざまな角度が付き,鞄の外観が変形する程度に照らせば,機能的にはその変化等は物品を持ち運ぶために鞄が変形しているといえる範囲の変化であるといえる。上記の特徴は,著作物性を判断するに当たっては,実用目的で使用するためのものといえる特徴の範囲内というべきものであり,原告商品において,実用目的で使用するための特徴から離れ,その特徴とは別に美的鑑賞の対象となり得る美的構成を備えた部分を把握することはできないとするのが相当である。
以上、簡単ではありますが、BAOBAO の形態の商品等表示性と著作物性について取り上げてみました。今回特筆すべきは、原告商品の形態の特徴の認定の方法であり、外形等に関わらず、非常に広い範囲が認定されています。BAOBAO はこれまでにない商品であり、広く保護されることは良いことだと思いますが、一方でこのような形態の特定の仕方に驚きもありました。
なお、原告はBAOBAO に関連して意匠権や商標権も有していますが、被告商品との兼ね合いからか、今回は不正競争防止法(及び著作権法)に基づく提訴となったのではないかと思われます。
以下ご参考までに一部の登録意匠・商標を。