平成 29 年 ( ワ ) 第 19266 号 不正競争行為差止等請求事件(東京地裁)
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/671/088671_hanrei.pdf
添付文書 1:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/671/088671_option1.pdf
今回はいつもと少し毛色を変えて不正競争防止法 2 条 1 項 14 号(現 20 号)の品質等の誤認惹起行為に関するものです。なお、本事件に関連しては、被告ウェブサイトのタイトルタグやメタタグの表示について、2条 1 項 1 号の商品等表示性を認めた不競法裁判も並行して審理されていました。本事案と比較しつつ最後に簡単に触れております。
事件の概要
浄水器の交換カートリッジの通信販売等を目的とする被告が、原告の販売する蛇口一体型の浄水器に使用できる交換用カートリッジ(すなわち非純正品)を販売していたところ、そのウェブサイトや被告商品のパッケージに付された被告表示が品質の誤認を惹起させるものとして、表示の除去等を求められた事案です。なお、被告表示4、5については割愛させて頂きます。
品質誤認表示の有無について
浄水器のカートリッジは家庭用品に該当し、家庭用品品質表示法に基づき表示事項が定められていますが、詳しくは判決文 5-6 頁をご参照下さい。
(1) 被告表示1について
被告表示1について、原告は「タカギ社製」が「交換用カートリッジ」を修飾し被告商品がタカギ社製である等の誤認を生じると主張していますが、判決では「「タカギ社製」という文言は「浄水蛇口」を修飾し,全体として,「タカギ社製の浄水蛇口に適合する交換用カートリッジを探している皆様へ」という趣旨であると理解するのが自然である。」とし、また、ウェブページの記載全体から、被告商品を原告商品と誤認することはないと判断しています。
同ウェブページを下方にスクロールすると,「ご購入の前にお読みいただき,ご了承のうえお買い求めください」との注意書きがあり,その枠内には「当社製品はタカギ社純正品ではございません。標準タイプ・高除去タイプという当社製品グレード名,互換との表現は,タカギ社製品と同一性能を示すものではございません。」との打消し表示が存在し,さらにその下にも「※当製品はメーカー純正品ではございません。」などと記載されている(甲1~7)。同表示又は記載に接した需要者は,被告各ウェブページで販売されている被告各商品が原告の商品ではないことを認識し得たというべきである。
これ自体に異論はないかと思いますが、あえて取り上げたのは先に上げた不競法 2 条 1 項 1 号の商品等表示に関して、このような打消し表示は影響を受けないと判断しているためです。*但し、このとき問題となっているのは別のタイトルタグ・メタタグ部分であり、被告表示「タカギ」の後に空白がある「タカギ 取り付け互換性のある交換用カートリッジ…」となっています。
被告標章1及び2の後に空白部分があり,さらにその後に商品の品名等が記載されているという表示の態様,「互換性」という用語は製造販売者が同じ商品間でも用いられること(甲46),検索結果の表示画面において表示される内容やそこでの説明の文字の大きさ,当該商品の性質やウェブページでの表示であることに鑑み需要者は全ての記載を注意深く観察しない可能性が相当程度あることなどに照らし,被告らの主張は採用することができない。
(2) 被告表示2について
被告表示2はより一般的に使用される例ですが、裁判所は以下の通り判断しています。
「高性能・高品質」との表示は一般的・抽象的であり,このような表示をすることについて客観的な基準が法令等で定められているものではない。また,商品の広告においては,自らが販売する商品の品質が高いと謳うことが一般的であり,需要者もそのことを認識し,また,商品の品質と価格の間には相関関係があると考えるのが通常であると考えられる。(中略)需要者は,商品の購入に当たり,種々の要素を考慮するのが通常であり,「高性能・高品質」と評価するかどうかは需要者の主観に委ねられていることに加え,後記 (4) のとおり,被告各商品(高除去タイプ)の総ろ過水量800L通水時の2-MIB(カビ臭)の除去率が80%を上回ることに照らすと,同各商品が「高性能・高品質」であると表示したとしても,その表示が虚偽であるということはできない。
(3) 被告表示3について
原告が被告表示3を品質誤認と主張するのは、「活性炭の使用に関し,その性能は,被告各商品(標準タイプ)の方が被告各商品(高除去タイプ)より優れているにもかかわらず,高除去タイプの活性炭の方が標準タイプの活性炭より品質が高いとの印象を需要者に与える表示をしている点」ですが、この点も以下の通り判断されています。
需要者は,いずれのタイプの活性炭についても良質な活性炭を使用していると認識するにとどまり,高除去タイプの活性炭が標準タイプの活性炭よりも格段に品質の優れたものであると認識するとは認め難い。うすると,原告の主張するとおり,被告各商品(標準タイプ)の活性炭の方が被告各商品(高除去タイプ)の活性炭よりもその性能が優れているとしても,被告各商品(高除去タイプ)に関する上記表示が虚偽であり,需要者にその品質を誤認させるものであるということはできない。
タイトルタグ・メタタグの表示の商品等表示性について
さて、関連事件でタイトルタグとメタタグの商品等表示性が争われた事件と最初に述べていましたが、商標ではありますが、平成 27 年の IKEA 事件(メルマガでも取り上げています。2017 年 10 月 第 53 号)、平成 17 年のくるまの 110 番事件などで商品等表示性は認められている例はあります。
こちらの事案では、被告表示1のところでも触れたように、被告標章(「タカギ」)の後に空白部分があり、さらにその後に商品の品名等が表示されていることがポイントとなっています。また、打消し表示が直ちに商品等表示性を否定するものではないことは既に示した通りです。一方「タカギに…」や「タカギ…」という表示については、商品等表示性は認められておりません(裁判所判事「いずれも「タカギ」というカタカナ3文字の後に「に」又は「の」という助詞が付加され,当該商品が原告商品に対応するものであるという,商品内容を説明するまとまりのある文章が表示されている。そして,このような表示内容に照らせば,需要者が上記の表示に接した場合には,それらにおける「タカギ」との表示は,当該商品が対応する商品を示すものであると受け取り,当該商品自体の出所を表示するものであると受け取ることはないと認められる」)。また、「タカギ社製」という表示についてもその態様から商品等表示性は認められませんでした。興味のある方は判決文をご参照下さい。
平成 29 年 ( ワ ) 第 14637 号(東京地裁)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/945/087945_hanrei.pdf
平成 30 年 (ネ) 第 10064 号等(知財高裁)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/074/089074_hanrei.pdf
今般の事案では、品質誤認という観点で見れば、至極普通の判断であると思います。しかし、非純正品という事情もあって原告はこのような訴訟を提起したのではないかとも考えられます。また、不競法の品質誤認の裁判例としては、本みりんタイプ事件やキシリトールガム比較広告事件、電子ブレーカ事件などありますが、訴訟にならないまでも景品表示法や各規格の表示事項の定めなど普段から注意が必要です。
以上