特許判決紹介「非純正」の打消し表示について争われた事件

事件番号:平成31( ネ)10031  特許権侵害差止等請求控訴事件
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/026/089026_hanrei.pdf

【事案の概要】
一審原告は、調剤薬局等の顧客に、一審原告製の薬剤分包装置を販売するとともに、これに適合するロールペーパも顧客に販売していました。そして、ロールペーパの中空芯管の所有権を一審原告に留保しており、顧客がロールペーパに巻かれた薬剤分包用シートを使い切ると、顧客から中空芯管を回収して、新たなロールペーパを顧客に販売していました。
一方、一審被告らは、薬剤分包用ロールペーパの販売をしており、顧客から問合せがあると、購入手続について顧客に説明し、顧客が一審被告らから送付された「注文書兼使用許可書」に必要情報を記入して返送するとともに、使用済みの一審原告製中空芯管を送付して、被告製品を注文し、一審被告らは、「納品書」と共に被告製品を納品するという形態で販売が行われていました。
一審被告ウェブサイトのトップページの下方に「■共通非純正分包紙のご案内」として、「分包機メーカー共通非純正分包紙を販売いたしております。使用済みお客様所有の「分包紙用芯管」をお預かりし、共通分包紙を巻いてお届けいたします。」と記載されていたほか、トップページの左上にある「非純正分包紙」をクリックすると、非純正品を販売しているウェブページが表示される設定で、非純正品ウェブページでは、一審原告の商標を用いて右上部に「純正ユヤマ分包紙はこちら→」との記載があり、「ユヤマ分包機対応」との記載に続いて各種の製品が表示されておりました。ただ、当該ウェブページ上では、非純正品であることが明示されているわけではなく、また、非純正品の価格は、純正品より低額なものでした。

【本件の争点】
一審被告は、非純正品であることを明示して販売していたことや購入者が調剤薬局であることなどからすると、購入者は被告製品が非純正品であること、すなわち、一審原告の製品ではないことを正確に認識しており、出所表示機能や品質保証機能が害されていないから、商標法26 条1 項6 号が適用されるか、実質的違法性を欠き、商標権侵害が成立しないと主張しました。
そこで、一審被告の商標の使用について、商標法第26 条1 項6 号該当性及び実質的違法性が争われました。

【裁判所の判断】
裁判所は、後で述べる( ア) ~ ( オ) の各事情を考え併せると、購入者の全てが、被告製品が非純正品であること、すなわち、一審原告の製品ではないことを正確に認識していたとは認められず、一審被告らの上記主張はその前提を欠くものであって、採用することができない、として商標法第26 条1 項第6 号は適用されず、実質的違法性も欠けることはないとして商標権侵害の成立を認めました。
裁判所の判断の中で述べられた(ア)~(オ)の事情というのは、以下のようなものです。

( ア) 被告はウェブサイトのみならず、ダイレクトメールやFAX等でも宣伝活動を行っていたが、ダイレクトメールやFAXでどのような態様で宣伝がされていたのかは証拠上必ずしも明らかではない。

( イ) 一審被告らは、顧客に対し、非純正品であることを説明していたと主張するが、供述の裏付けとなるような顧客への対応マニュアルや顧客に送付された電子メールといったようなものは何ら証拠として提出されていない。

( ウ) 被告製品の購入を申し込むために顧客が一審被告らに対して送付する「注文書兼使用許可書」についても、「非純正」の文字は後から記載されるもので、常に記載されていたのかは証拠上明らかではないし、また、「非純正」の文字が取り立てて大きく表示されたり、強調されたりしていないことからすると、仮に記載されていたとしても顧客がこれに気付かないこともあり得る。また、上記の「注文書兼使用許可書」が常に使用されるものであったとも認められない。
納品書についても、「分包紙はお客様からお預かりした芯で作りました。」とだけ記載されており、非純正品であることが明示されているわけではない。

( エ) 一審被告らのウェブサイトには「非純正分包紙」という記載があったものの、被告らの非純正品ウェブページ1では、「ユヤマ分包機対応」との記載に続いて各種の製品が表示されているのみで、非純正品であることが明示的に記載されていない等、一審被告らのウェブサイトに接した購入者の全てが、被告製品が非純正品であると正確に認識するとは認められない。

( オ) 購入者が調剤薬局であるからといって、その注意力が常に一般消費者に比して高いとまではいえず、購入者の一人が、被告製品が非純正品であると認識していたことがあるからといって、それにより全購入者が同じ認識であったとは認められない。

【本件の判断】
裁判所は「購入者の全てが、被告製品が非純正品であること・・・を正確に認識していたとは認められず・・・」と述べており、十分な打消し表示であれば商標権侵害が否定されるケースもあります。
そのため、他者の登録商標を使用して打消し表示を行う場合は、誰が見ても打消し表示であることがわかるよう記載方法に細心の注意を払う必要があるといえます。

清水三沙

清水三沙