2017.2.15
審決・判決紹介判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/083/086083_hanrei.pdf
別紙1:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/083/086083_option1.pdf
別紙2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/083/086083_option2.pdf
別紙3:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/083/086083_option3.pdf
乳幼児用浮き輪の輸入販売を行っている原告(日本における総代理店)は、販売に際し日本語で作成した商品の取扱説明書(原告説明書)を同封していたところ、同じく乳児用浮き輪の輸入販売を行っている被告が同封している取扱説明書(被告説明書)の説明文及び挿絵は原告の説明文及び挿絵を複製したものであり、原告の著作権等を侵害するものであるとして差止め及び損害賠償を求めたものです。
なお、原告説明書が作成される前から輸入元(カナダ・モントリー社)の英文説明書が存在し、原告説明文はこの英文説明書の説明文を日本語に翻訳、修正されたものと認められるため、二次的著作物としての判断がされています。
原告著作権侵害が成立するためには共通する部分に原告の創作性が必要であるところ、裁判所は取扱説明書の説明文に関し以下のように表現の選択の幅は限られる旨、述べています。
製品の取扱説明書としての性質上,当該製品の使用方法や使用上の注意事項等について消費者に告知すべき記載内容はある程度決まっており,その記載の仕方も含めて表現の選択の幅は限られている。これに対し,原告は,我が国においては,原告が初めて本件商品を販売した際,高い品質と安全性が求められる日本市場向けに幼児用首浮き輪の安全適切な使用方法等を分かりやすく理解させるための取扱説明書は存在していなかった旨指摘するけれども,そのような状況にあっても,本件商品の使用方法や使用上の注意事項等については,それ自体はアイデアであって表現ではなく,これを具体的に表現したものが一般の製品取扱説明書に普通に見られる表現方法・表現形式を採っている場合には創作性を認め難いといわざるを得ない。
本件商品の取扱説明書において,幼児のどのような行動に着目した注意事項を記載しておくか,どのような文章で注意喚起を行うかといった点についても,選択肢の幅は限られているとみられる。
また、前述の通り原告説明文はモントリー社の説明書の説明文に依拠しているとし、二次的著作物として作成したものであるため、以下の通り二次的著作物における創作性の判断基準についてポパイ事件を引用し示しています。
二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないこと(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁〔ポパイ事件〕)に照らすと,上記①で創作性が認められる表現部分についても,② モントリー説明書の説明文と共通しその実質を同じくする部分には原告の著作権は生じ得ず,原告の著作権は原告説明文において新たに付与された創作的部分のみについて生じ得るものというべきである。
なお、平成20 年に「ST基準内商品,空気入れビニールおもちゃに対するPL-注意表示ガイドライン(改訂)」なるガイドラインが一般社団法人日本玩具協会により公表されているため、当該部分と実質的に同一の部分(依拠した部分)についても創作性は認められないとしています。
以上を踏まえた上で、原告説明文と被告説明文を比較するに、同一又は漢字/平仮名の違い、指示語の違いのみである等の共通する部分は多数みられるものの、「製品の取扱説明書においてありふれたもの」「言葉の対比自体はアイデアにすぎないし,救命用の商品でないという商品の基本的な性格付けを説明することには何ら個性の発揮が見られない」「製品の取扱説明書において,製品の使用方法を時系列的かつ具体的に記載すること自体は,通常必要な説明の仕方であり,ごくありふれた表現方法といわざるを得ない」など詳細は割愛しますが、共通する部分に原告の創作性は見られないとして被告説明文は原告説明文を複製したものではないと判断されました。
本件商品自体を描いたに留まるとされた挿絵1~3については、以下の通り創作性は認められないと判断されました。
本件商品の取扱説明書において,本件商品について説明するために,単に本件商品自体を描いたにとどまるものであり,その描き方には一定の選択肢があるとしても,当該目的・用途による制約が掛かるものである。上記絵は立体的な描き方をしているが,それ自体はありふれたものであるし,立体的に描く場合には,上記の目的・用途から,ある程度忠実に形状が分かりやすいように描く必要があると考えられるところ,上記絵の表現の仕方(技法等)はありふれており,個性の発揮は認められない。
一方で、乳幼児を含む挿絵4~6については創作性を認め、例えば挿絵4については、以下のとおり判断しています。
原告挿絵4は,①本件商品を乳幼児に試着する場面における(a) 本件商品,(b) 乳幼児の上半身及び(c) 乳幼児に本件商品を装着させる保護者等(以下,単に「保護者」という。)の腕を記載した絵に,②「試着してみる」との文字,3つの矢印及び円形の点線を加えたものである。
上記①の絵について,(a) の部分はそれ自体としては前記( ア) のとおりありふれており,(c) の部分もそれ自体としてはごくありふれているが,(b) の部分は乳幼児の顔・頭・恰好等をどのように描くかについてはある程度選択の幅がある上,(a) ないし(c) をどのような範囲でどのような位置関係で組み合わせて描くかについても,選択の幅がある。本件商品の使用方法等を示す挿絵という性質上,表現の選択の幅はある程度限られる面があるものの,上記のような絵全体としての描き方には少なからぬ選択肢が存すると考えられるところ,上記①の絵を全体として見た場合に一定の個性が発揮されていることは否定できない。そうすると,上記②の点についてはありふれたものであるにしても,原告挿絵4について,その創作性を否定して,著作物としての保護を一切否定することは相当でなく,狭い範囲ながらも著作権法上の保護を受ける余地を認めることが相当というべきである。原告挿絵4は,本件商品の取扱説明書における挿絵ではあるが,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものであり,美術の著作物に当たるというべきである。
また、被告挿絵が原告挿絵を複製しているかについては、微細な相違点はあるもののそれらを併せても被告の創作性は認められないとして、原告挿絵を複製したものであると認められました。
以上より、上記被告挿絵4~6の複製行為に関してのみ被告による原告著作権侵害が認められました。
今般の事案は取扱説明書であるため限定的な見方がされているのに加え、英文説明書が存在していたため二次的著作物と認定されたことからより限定的に判断されました。取扱説明書については、今般の事案のように著作物性が限定的に判断される一方で著作物性が認められた事案もあることから、注意が必要になるかと思います。
以上