「ケントブロス」商標権侵害差止等請求事件【商標判決紹介】

令和2年()第1160号商標権侵害差止等請求事件(東京地方裁判所)

判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/919/090919_hanrei.pdf

原告 ケントジャパン株式会社

被告 株式会社マルシン商会

 

 今月紹介する事件は、「KENT BROS./ケントブロス」の商標権者(被告)が「KENT」と「BROS.」を上下二段の態様で商標を使用していたところ、「KENT」の商標権者(原告)から商標権侵害で訴えられ、商標権侵害に該当すると判断された事案です。

 また、判決の中で、被告は登録商標の使用の抗弁を主張しましたが、当該主張は認められませんでした。

 原告商標と被告標章が類似と判断された理由、及び被告の登録商標の抗弁が認められなかった理由に着目してほしい事件です。

 

〔事件の概要〕

商標「KENT」(以下、「原告商標1」)及び「Kent」(以下、「原告商標2」)を有する原告が、標章「Kent/Bros.」を被服に付して販売していた被告に対し、被告標章の使用は原告商標権を侵害するとして被告標章の使用を差止めを求めたところ、原告の請求が認められた事案です。なお、被告は商標「KENT BROS./ケントブロス」を登録していました。

 

〔本件の争点〕

争点1:原告各登録商標と被告各標章との類否

争点2:登録商標使用の抗弁の成否

争点3:差止めの必要性の有無

 

〔裁判所の判断〕

争点1:原告各商標と被告ら標章との類否

裁判所は、以下のように被告標章1及び2から「KENT」のみを抽出できると判断し、原告商標と被告標章1及び2は類似と判断しました。

①被告標章1の分離の可否

「被告標章1の構成部分のうち、「BROS.」から出所識別標識としての称呼、観念が生じないとまでは認められないものの、上段の「KENT」と下段の「BROS.」は、二段以上にまたがって配され、かつ、それぞれが独立した単語となり得ることにより、横一列に配された場合と比較して結合の度合いは相当弱くなることに加え、一本の白い横棒のような外を有する中段の「MARINE SPIRIT」により上下に分離されている上、「KENT」に対応する「Kent」ブランドが、被服の分野において、相応の周知性を有しており、取引者及び需要者に対し、商品の出所識別標識として相当強い印象を与え得ることからすれば上段の「KENT」と下段の「BROS.」とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとまではいえない。したがって、被告標章1については、上段の「KENT」のみを分離して観察することができると認めるのが相当である。

その結果、被告標章1については、「ケント」との称呼が生じ、かつ、原告が使用権を設定し、イトーヨーカドーが使用する「Kent」ブランドの商品であるとの観念が生じるものと認められる。」

②被告標章2の分離の可否

「被告標章2の外観は、・・・上段に横書きの「KENT」、下段に横書きの「BROS.」を、いずれもほぼ同じ列幅で、かつ、上段と下段との行間をほとんど空けることなく二段に配して成る結合商標であって、全体としてまとまりよく構成されている。

もっとも、欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるから、上記の「KENT」と「BROS.」のように、二段以上にまたがって欧文字が配された場合には、横一列に配された場合と比較して結合の度合いは弱くなり、上段と下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合、その結合の度合いがより弱くなることは、被告標章1の場合と同様である。そして、前記アのとおり、「BROS.」から出所識別標識としての称呼、観念が生じないとは認められないものの、他方で、「Kent」は商品の出所識別標識として取引者及び需要者に相当強い印象を与えていたものと認められ、かつ、「KENT」の標章が被服に用いられた場合には、取引者及び需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認められる。」

 

争点2:登録商標の使用の抗弁

被告は、被告使用標章が登録商標と全く同一でなくとも、取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものであれば登録商標の使用の抗弁が成り立つものと解するのが相当であると主張しました。

しかしながら、裁判所は、被告登録商標は上段に欧文字「KENT BROS.」、下段に片仮名「ケントブロス」と二段に配したものであるのに対し、被告標章1は上段に「KENT」、中段に「MARINE SPIRIT」、下段に「BROS.」と欧文字を3段に配して成り、被告登録商標とは、中段の「MARINESPIRIT」という欧文字を含む点、「KENT」と「BROS.」が横一列ではなく二段に配して成る点、「ケントブロス」というカタカナを含まない点等の外観上の相違点を指摘しました。

被告標章2も同様に、被告登録商標とは、「KENT」と「BROS.」が横一列ではなく二段に配して成る点、「ケントブロス」というカタカナを含まない等の外観上の相違点を指摘しました。

その上で、「以上のような外観上の相違点が存在することに照らせば、被告各標章と被告登録商標が、取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるということはできない。したがって仮に本件において被告が主張する登録商標使用の抗弁の適用があり得るとしても被告各商品に被告各標章を使用する行為についてこれが被告登録商標の専用権の範囲内の使用に当たるとは認められないから上記抗弁は理由がないことに帰する。」と判断しました。

 

争点3:差止めの必要性の有無

被告は、現時点において被告商品を製造販売しておらず、被告商品の在庫が存在しないことから差止めの必要性がないと主張しました。しかしながら、裁判所は、本件訴訟係属前に被告が原告商標権を侵害しないことから原告の要求に応じられないと回答していたこと、及び被告が裁判において原告各商標権の侵害を争っていること、被告各商品はいずれも被服であり、一般に製造又は販売することが比較的容易な物であることを踏まえると、現時点において被告が被告商品を製造及び販売しておらず、被告商品の在庫が存在しないとしても、差止める必要があると判断しました。

 

〔コメント〕

 本件は、原告の「Kent」ブランドの周知性が認められ、被告標章からは「KENT」のみを抽出され、原告商標と被告標章は類似と判断されました。周知商標を含む商標の登録について、周知商標に別の語を結合し一連一体にすることで出願審査において登録になるかもしれませんが、登録後は使用態様に注意しなければ本件のように商標権侵害に該当する可能性があるということを改めて感じさせられました。

 また、被告は被告標章の使用は登録商標の使用のであるから商標権侵害に該当しない旨の抗弁を行いましたが、被告登録商標と被告標章の外観上の相違を理由に認められませんでした。登録商標を正しく使用する必要があるということも注意喚起している事件であります。

清水三沙

清水三沙