令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件(知財高裁)
(原審・東京地方裁判所令和元年(ワ)第21993号)
判決文: https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/798/090798_hanrei.pdf
原審 : https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/359/090359_hanrei.pdf
本事件は、原告(原告の前身企業)の製作によるタコの形状を摸した滑り台(公園遊具)が美術の著作物又は建築の著作物に該当し、被告によるタコの形状を摸した被告滑り台(公園遊具)の製作は原告著作権(複製権又は翻案件)を侵害するとして損害賠償の請求を求めたものです。原審では著作権侵害は認められず(そもそも著作物には該当しない)、今般の控訴審でも同様の判断がされております。なお、控訴審判決は原審判決を訂正する形となっているため、一部原審判決を引用しています。
* 左右側面写真については省略しています。
争点1-1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について
応用美術の著作物に関する裁判例についてはこれまでも何度か取り上げていますが、改めて応用美術についてどのように解されるかも含め裁判所の判断をみていきたいと思います。
応用美術のうち,美術工芸品以外のものであっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。
この点、控訴人(原告)は、原告滑り台が一品製作品というべきものであり美術の著作物に該当すると主張し、その根拠として各種記事に掲載された控訴人の会長の発言等に基づく記載(「タコの滑り台は一つ一つデザインが違い,その都度設計する。」「一つ一つが手作りで,全く同形の作品はないという。」「どのタコも手作りで作られていて,二つとして同じ形のタコはいないんだそう!」)を挙げていますが、いずれも会長の発言や伝聞を掲載したもので客観性に欠けるとしています。他方で、以下の観点から原告滑り台は,「美術工芸品」には該当しないと判断されました。
前田商事が全国各地から発注を受けて製作したタコの滑り台は260基以上にわたること,前田商事が製作したタコの滑り台は,基本的な構造が定まっており,大きさや構造等から複数の種類に分類され,本件原告滑り台は,その一種である「ミニタコ」に属するものであったことからすれば,本件原告滑り台と同様の「ミニタコ」の形状を有する滑り台が他にも製作されていたことがうかがわれる。そうすると,上記各証拠から直ちに本件原告滑り台が一品製作品であったものと認めることはできない。
では美術の著作物として保護される応用美術に該当するか、という点についても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握できる部分には美的特性である創作的表現を備えているとは認められませんでした。
タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最も高い箇所に設置されており,同部分に設置された上記各開口部は,滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造であって,滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であるといえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開口部及びスライダーに移動するために必要な構造である上,開口部を除く周囲が囲まれた構造であることによって,高い箇所にある踊り場様の床から利用者が落下することを防止する機能を有するといえる。他方で,上記空洞のうち,スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うように配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止するなどの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではいえない。
そうすると,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握できるものであるといえる。
しかるところ,上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させるものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状としても,ありふれたものである。
なお、タコの足を模した部分はスライダーとして利用者に用いられる欠くことのできない部分であること、空洞(トンネル)部分は滑り台としての機能に必ずしも直結しないとしても遊具としての利用と不可分に結びついた部分であることから実用目的の部分であり、全体形状についても実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握することはできないとしています。
本件原告滑り台のようにタコを模した外観を有することは,滑り台として不可欠の要素であるとまでは認められないが,そのような外観は,子どもたちなどの本件原告滑り台の利用者に興味や関心を与えたり,親しみやすさを感じさせたりして,遊びたいという気持ちを生じさせ得る,遊具のデザインとしての性質を有することは否定できず,遊具としての利用と関連性があるといえる。また,本件原告滑り台の正面が均整の取れた外観を有するとしても,そうした外観は,前記(ア)及び(イ)でみたとおり,滑り台の遊具としての利用と必要不可欠ないし強く結びついた頭部及び足の組み合わせにより形成されているものであるから,遊具である滑り台としての機能と分離して把握することはできず,遊具のデザインとしての性質の域を出るものではないというべきである。
争点1-2(本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか)について
まず、建築の著作物を考えるにあたり、原告滑り台が「建築」であるかについて以下のように解することができるとしています。
「建築の著作物」にいう「建築」の意義については,建築基準法所定の「建築物」の定義を参考にしつつ,文化の発展に寄与するという著作権法の目的に沿うように解釈するのが相当である。そこで検討するに,建築基準法2条1号が「建築物」という用語の意義について「土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)」等と規定しており,本件原告滑り台も,屋根及び柱又は壁を有するものに類する構造のものと認めることができ,かつ,これが著作権法上の「建築」に含まれるとしても,文化の発展に寄与するという目的と齟齬するものではないといえる。そうすると,本件原告滑り台は同法上の「建築」に該当すると解することができる。
これを踏まえた上で、「建築の著作物」としての著作物性については、以下のとおりとしています。
「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)か否か,すなわち,同法で保護され得る「美術」の「範囲に属するもの」であるか否かを検討する必要がある。具体的には,「建築の著作物」が,実用に供されることが予定されている創作物であり,その中には美的な要素を有するものも存在するという点で,応用美術に類するといえることから,その著作物性の判断は,前記(1)アで説示した応用美術に係る基準と同様の基準によるのが相当である。
よって、建築物としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるか、という点が問題となりますが、既にみてきたとおり美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作表現はないとして、建築の著作物にも該当しないと判断しました。
本件原告滑り台の形状は,頭部,足部,空洞部などの各構成部分についてみても,全体についてみても,遊具として利用される建築物の機能と密接に結びついたものである。また,本件原告滑り台は,別紙1原告滑り台目録記載のとおり,上記各構成部分を組み合わせることで,全体として赤く塗色されていることも相まって,見る者をしてタコを連想させる外観を有するものであるが,こうした外観もまた,子どもたちなどの利用者に興味・関心や親しみやすさを与えるという遊具としての建築物の機能と結びついたものといえ,建築物である遊具のデザインとしての域を出るものではないというべきである。
久しぶりに応用美術の著作物性に関する事件を取り上げてみました。公園のタコの滑り台は色々なところで見かけるので気にしたことはありませんでしたが(私もタコの滑り台は好きでした。)、確かに形を変えたり色々できるので原告が提訴した気持ちもわからないでもありません。一方で、これが著作物として保護されると遊具等の扱いが難しくなるなど単純に考えていいものでもないと思います。