令和元年(ワ)第10829号 意匠権侵害差止等請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/053/091053_hanrei.pdf
■事件の概要
本件は、意匠に係る物品を「頭部マッサージ具」及び「指マッサージ器」とする各意匠権を有する原告が、被告の製造、販売、輸入等に係る各被告製品の意匠は本件各意匠にそれぞれ類似するなどとして、被告製品の販売等の差止、損害賠償等を請求した事案です。
いずれの被告製品に係る意匠も本件意匠と類似すると判断され、被告製品の販売等の差止、製品の廃棄、金型の除去、原告に対する約704万円他の損害賠償等の支払いが命じられました。
以下、本件意匠1と被告意匠1が非類似と判断された流れをざっくりご紹介します。
(1)両意匠の共通点・差異点
裁判所は、両意匠は基本的構成態様の多くの点において共通し、また、具体的構成態様は、正面視にて、中央の枝部はほぼ直線状に延び、その一つ外側の枝部は外側に広がるよう湾曲しており、一番外側の2つの枝部は更にきつく外側に広がるよう湾曲している点及び各涙滴状部が等間隔に配置されている点において共通するとしました。
(2)本件意匠1の要部について
要部の認定にあたり、公知意匠について検討がされました。証拠上、公知意匠は2件挙げられていたところ、いずれも本件意匠1の出願日前に公知となった意匠と認められるとしたうえで、1件は「孫の手」であり、もう1件は「人やペット等の背中や腹部を掻いたり、マッサージするためなどに使用される物品」であって、形状において本件意匠1と共通する部分はあるとしても、具体的形状は大きく異なるとして、本件意匠1に先行する公知意匠ということはできないとしました。
また、本件後願意匠については、登録意匠の要部認定に当たっては、先行する公知意匠を考慮すべきではあっても、登録意匠の出願に後れる後願意匠を考慮することは原則として相当でないと述べています。
そして、物品の用途や使用態様、需要者が注意をひかれる部分を検討し、上記のように公知意匠について検討したうえで、本件意匠1の要部は、両意匠の形状における共通点に相当するとしました。
(2)両意匠の類否について
裁判所は、両意匠の類否について、その骨格的な構成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わせたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通性を凌駕するほどのものということはできないとして、両意匠は、全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通しており、類似するというべきであると判断しました。
(3)無効理由の有無
本件意匠1の無効理由の有無も争点となっていました。原告製品1を販売するサイトの一つであるAmazonにおいて、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2007/12/10」という、本件意匠1の出願日前の表示あるため、新規性欠如の無効理由があると主張されました。
しかしながら、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日」欄の記載は、販売業者が任意に入力し得るものであり、商品情報の登録にあたっては他にも入力すべき項目が多数あること、手入力のほか、過去に登録済みの商品データを流用することなども可能であることから、本件の販売開始日の表示が誤りである可能性は無視できないとし、その他に当該サイトで出願日前に原告製品1の取り扱いが開始されたという証拠もなかったことから、本件意匠1に無効理由があるとする被告の主張は採用されませんでした。
本件意匠2についても同様の流れで意匠の類否が判断され、両意匠は類似すると判断されました。
公知意匠として「孫の手」などが挙げられたものの、「頭部マッサージ」そのものではなく、形状も先がいくつかに枝分かれしているという程度の共通点しかなかったようです。頭のカーブに沿わせてぐいぐいマッサージをするという製品であって、本件意匠1のような製品が過去になく、その全体的な形状が特徴的であったため、細部の形状の違いを超えて似た印象を与えると判断されたのだと思います。本件意匠2の「指マッサージ器」も、原告製品以前にはない形状だったようです。
過去にない斬新なデザインであれば権利範囲は相対的に広くなり得るため、意匠の類否判断にあたっては、その分野における物品が一般的にどういう形態のものなのかを知ることは大切だと改めて思いました。