「ベガスベガス」商標権侵害損害賠償等請求事件【商標判決紹介】

令和元年(ワ)第11874号損害賠償等請求事件(東京地方裁判所)

判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/614/090614_hanrei.pdf

原告 株式会社ベガスベガス

被告 株式会社テキサス・カンパニー

 

〔事件の概要〕

 「ベガスベガス」の商標権者である原告が、「ベガスベガス」を店舗名としてパチンコ・スロット施設を営業していた被告に対し、被告標章の使用は原告の商標権を侵害すると主張し損害賠償等を求めた事案です。

 裁判所は、被告の被告標章の使用は原告の登録商標の商標権侵害であると認定し、損害賠償額の計算において、原告各商標に関する使用料率は0.15%と認めるのが相当と判断しました。

 

〔原告商標〕

原告商標1:登録第5310661

 

 

 

41類「娯楽施設の提供」他

 

原告商標2:登録第5473817

 

 

 

41類「娯楽施設の提供」他(その他:第35類)

 

〔被告標章〕
(被告は、被告標章をパチンコ・スロット施設の店舗名に使用) 

 

被告標章1:

 

被告標章2:

 

 

その他10

 

〔本件の争点〕

争点:原告各商標と被告ら標章との類否

争点②:商標法238号の「使用」該当性

争点③:先使用の抗弁の成否

争点④:原告の損害及び利得額

 

〔裁判所の判断〕

争点①:原告各商標と被告ら標章との類否

裁判所は、原告商標1と被告ら標章1は、文字の種類が異なるなどの外観上の差異はあるものの、称呼及び観念が同一であることから、役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり、全体として類似していると判断しました。

争点②:商標法238号の「使用」該当性

被告は、原告各商標の登録前に被告ら標章を被告らホームページに公開し、被告ら標章を付した看板を取り付けていたことから、被告らは、「商標法2条3項8号にいう展示とは作為を意味するものであり商標登録以前に展示されていた標章を除去しない行為は不作為であるから同号の展示には当たらない」と主張しましたが、裁判所は、「『展示』は時間的に幅のある概念であり標章を付して商標権を侵害する状態が継続する限りは 『展示 に該当するというべきである。」と判断しました。

争点③:先使用の抗弁の成否

被告は、原告各商標の出願前から被告ら標章を店舗の看板等で継続して使用しており、同被告ら標章は原告商標出願の際には需要者の間に広く知られていたから、被告らは商標法32条1項に基づく先使用権を有すると主張しました。

しかしながら、看板の表示・設置態様等が明らかでないこと、周知性を裏付ける証拠等が不十分であったことから、裁判所は被告の先使用の抗弁は認めませんでした。

争点④:原告の損害及び利得額

被告は、「原告の登録商標には顧客吸引力が認められないから損害は発生していない」と主張しましたが、この点について裁判所は、原告が全国で33店舗を経営しており、パチンコ業界での店舗数ランキングは全国15位であることや、米国の著名な都市を想起させる「ベガスベガス」という原告各商標は需要者に対する訴求力を有するというべきであること等から、原告各商標は相応の顧客吸引力を有すると判断しました。

次に、 使用料相当額に関する使用料率について、裁判所は、原告商標は相応の顧客吸引力を有するものと認められると判断したものの、

「他方で、全日本遊技事業協同組合連合会が実施したアンケート結果によると、パチンコホールを選ぶ上でのポイントとして需要者が重視するのは、①遊戯機種②アクセスの容易さ③出玉感④ホールの雰囲気⑤店員の接客態度などであり店舗の名称が売上げ又は利益に貢献する程度は限定的であるというべきである。

さらに、原告と被告らはその事業分野で競合しているが、営業地域をみると、原告の店舗は、北海道、東北地方及び関東地方が中心であり、本件各店舗の所在する広島県及び山口県においては店舗展開及び営業活動をしていない。他方、被告らは、原告各商標の出願前から本件各店舗を同地域に出店し、地元の需要者に対して、新聞の折込みチラシ新聞紙面広告、テレビCM、などによる宣伝広告活動を継続してきたものと認められ、被告らによるかかる営業活動がその売上げに貢献する割合は大きかったと推察される。

本件各店舗の月当たりの営業利益をみると、売上高の概ね●(省略)●前後で推移しているものと認められ、売上高に対する営業利益の比率は必ずしも高くないことからすると、通常想定される使用料率は上記の割合より相当程度低くなると考えられるが、本件においては,さらに、店舗の名称が売上げに貢献する程度は限定的であり、原告と被告らは本件各店舗の所在地で競合していないこと、被告の営業努力の寄与が大きいなどの事情が認められる。

以上の事情も含め,本件に現れた事情を総合考慮すると,原告各商標に関する使用料率は0.15%であると認めるのが相当である。」と判断しました。

 

〔コメント〕

 モンシュシュ事件では被告の営業努力の寄与を考慮して使用料率が0.3%と判断されましたが、本件ではそれよりもさらに低い料率となっております。その理由としては、パチンコ店舗の名称が売り上げ又は利益に貢献する程度が限定的であることや、原告と被告の営業地域が重ならないことが考慮されたものと推察します。

清水三沙

清水三沙