組立て家屋事件【意匠判決紹介】

平成30年(ワ)第26166号 意匠権侵害差止損害賠償請求事件

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/077/090077_hanrei.pdf

■事件の概要

本件は、「組立て家屋」の部分意匠に係る意匠権を有する原告が、被告による建物の製造、販売等が本件意匠権を侵害するとして、被告製品の製造、販売等の差止め及び除去を求めるとともに、損害賠償金等の支払いを求めた事案です。

裁判所は、被告製品は「組立て家屋」であり意匠法上の「物品」に該当し、本件意匠に係る物品と同一であって、被告意匠は本件意匠に類似するため、被告の行為は本件意匠権を侵害するとして、被告に対し、被告製品の製造、販売等の差止めと、原告への損害賠償金等85万円1238円及び遅延損害金の支払いを命じました。

 

 

■本件の主な争点

・本件意匠と被告製品との類否

・損害の発生及びその額

・差止め等の必要性

(不正競争の成否も争われましたが、原告製品の形態は商品等表示性がなく不正競争行為には該当しないと判断されました。)

 

■裁判所の判断

(1)本件意匠と被告製品との類否について

 本件ではまず、被告製品が「組立て家屋」に該当するか否かが争われました。

被告は、被告製品は「不動産」として販売されており意匠法上の物品には当たらないと主張しましたが、裁判所は、被告製品の工法や工期などを詳細に検討した上で、被告製品は工業的に量産された材料を現場で組み立てるなど動産的に取り扱うことが可能な建物であるから、「組立て家屋」に該当すると判断しました。

「本件についてこれをみるに,前記ア(イ)aのとおり,被告は,被告各建物を建築する上で枠組壁工法を採用しているから,前記ア(ア)で認定したところを併せ考えれば,被告各建物について,工場等で量産された木材及び構造用合板を現場に運搬し,同所で組み立てて建築するという工程を経たことが推認される。このことは,前記ア(イ)bのとおり,被告各建物がいずれも3か月程度という短い工期で完成したことや,前記ア(ウ)のとおり,被告各建物がいずれも共通した形状を有していることによっても裏付けられるといえる。

以上によれば,被告各建物は,その建築工程等に照らし,使用される時点においては不動産として取り扱われるものの,それよりも前の時点においては,工業的に量産された材料を運搬して現場で組み立てるなど,動産的に取り扱うことが可能な建物であるから,「組立て家屋」に該当すると認められる。そして,被告各建物はいずれも被告製品1の構成態様を備えているから,被告製品1についても,同様に,動産的に取り扱うことができる建物と認められる。

したがって,被告製品1は,いずれも,「組立て家屋」として「物品」に該当するといえる。」

そして、裁判所は、両意匠の類否について、本件意匠の要部は家屋の正面視の梁部と柱部が略十字を形成し柱部が中心からやや外れた箇所に位置する点であり、本件意匠と被告意匠は要部において共通するため両意匠は類似すると判断しました。

なお、裁判所は、当該梁部と柱部が家屋の構造上必須のものではないことを確認した上で、デザイン面を考慮して配置されたものと推認できるとして、要部と認定していました。

(2)損害の発生及びその額について

被告は土地と建物をセットで販売していたところ、原告は、土地の販売利益も合わせた額を損害額とすべきと主張しましたが、裁判所は、本件意匠権の物品は「組立て家屋」であるから、本件の損害額の算定は、被告が「組立て家屋」の販売により得た利益の額とするのが相当と判断しました。

被告が得た利益の額については、被告の主張によれば土地の販売利益が多くを占め、建物の利益は少なかったりマイナスだったりしましたが、裁判所は、損害額の算定は客観的価格によるのが相当として、土地の固定資産評価証明書などから土地の価格を算定し、販売価格からその土地の価格と建築等費用を控除した額である771万2385円を建物の販売利益としました。

さらに、本件意匠は部分意匠であることから、意匠全体に占める大きさや、デザインの寄与の程度などを検討し、寄与率を10%としました。よって、被告が受けた利益の額は×١٠٪をした77万1238円であり、これに弁護士費用8万円を足した85万円1238円を損害額と算定しました。

(3)差止め等の必要性について

原告は、製造、販売の差止めに加えて、侵害品である建物の除去も求めましたが、裁判所は、既に顧客に販売された2つの建物については、それらの所有権は当該各顧客に移転しており、また、建築中の1つの建物については、正面視の柱部に当たる構成部分を除去する工事を完了していて、本件意匠と類似とはいえなくなったして、除去に係る請求は認められませんでした。

 

■コメント

昨年の意匠法改正により、不動産である「建築物」のデザインも意匠法で守られるようになりました。

本件は意匠法改正前の事件ですが、「組立て家屋」の意匠権の侵害成否が争われた初の事件であり、意匠の類否判断や損害額の算定などにおいて建物ならではの判断がされていて、「建築物」の意匠について考えるための今後の参考になると思います。

ハウスメーカーである本件の原告は、デザインでのブランディングに長年力を入れてきていたようです。ブランド構築のための建物のデザインを意匠法で守ることができるようになったのは良いことだと感じました。一方、建築物が意匠権侵害と判断されれば、場合によっては建て直しになる可能性もあるということです(本件は正面の一部を除去しただけですみましたが)。建物を建てたり販売するときには意匠権侵害とならないよう、より一層の注意が必要になると感じました。

 

徳永弥生

徳永弥生