類否判断が分かれた事件【商標判決紹介】

本日ご紹介するのは、商標A「●●●」と商標B「●●●+普通名称」の類否判断において、特許庁では「『非』類似」と判断されたが、裁判所では「類似」と判断されたというケースです。

事件:平成30( ワ)11204 号(商標権侵害差止請求事件、東京地裁)

〔事件の概要〕
登録商標「ABCカイロプラクティック」を保有する原告Xが、標章「ABCカイロプラクティックセンター」等を使用する被告Bに対し商標権侵害を理由に差止を請求したところ、被告Bは「原告商標は、先行商標『ABC』と類似し、商標法第4条第1項第11号に該当し、これを理由として無効とされるべき」との抗弁を行いました。
裁判所はこの無効の抗弁を認め、原告は商標権について権利を行使することができないと判断し、原告の請求を棄却しました。

■原告の登録商標
登録番号 :第5995186号
出 願 日: 平成29年3月21日
登 録 日: 平成29年11月10日
商 標 ABCカイロプラクティック(標準文字)
区分並びに指定役務:
第44類 あん摩・マッサージ・指圧・整体の施術・カイロプラクティック・きゅう・柔道整復・はり 他

■被告の使用標章
被告標章1:被告の運営するウェブサイトにおいて、「ABCカイロプラクティックセンター 乙地整体院」(他)

■被告が無効の抗弁において引用した先行商標
登録番号 :第5877163号
出 願 日: 平成28年6月7日
登 録 日: 平成28年8月26日
商 標  :ABC(標準文字)
区分並びに指定役務:
第44類 あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,はり 他

〔争点〕
(1) 原告商標と被告各標章の類否
(2) 商標法4条1項11号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否
(3) 商標法4条1項16号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否
(4) 商標法4条1項10号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否
(5) 先使用権の有無

〔商標法4条1項11号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否について〕
裁判所は「つつみのおひなっこや事件」の最高裁判決を引用した上で、
原告商標の『カイロプラクティック』という構成部分は,原告商標の指定役務との関係において,役務の種類ないし内容を表示するものにすぎない上,「カイロプラクティック」の文字は『手技によって脊椎のゆがみを矯正し,神経生理機能を回復する方法』『脊椎調整療法』といった意味を有する一般的,普遍的な文字であって,取引者,需要者に強い印象を与えるものではないから,上記構成部分から役務の出所識別標識としての称呼,観念は生じないというべきである。
他方,原告商標の「ABC」という構成部分は,「カイロプラクティック」という構成部分と不可分的に結合しているものではなく,分離して観察し得るところ,「ABC」はアルファベットの最初の三文字を並べたものであり,「初歩。基本。いろは。」などの観念も生じる語として需要者に馴染みのある上,「ABC」の文字は役務の内容等を具体的に表すものでもないことからすれば,原告商標の指定役務に係る取引者,需要者に対し,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められそうすると,原告商標の要部は「ABC」の部分であり,この部分のみを抽出して引用商標と比較して商標の類否の判断をすることが許される」と述べ、 原告商標の構成部分である「ABC」と引用商標である「ABC」は,その外観,観念及び称呼がいずれも同一であり,指定役務についても類似すると判断し、原告商標は,商標法4条1項11号に該当し,商標登録を受けることができないものであるため,商標登録無効審判により無効にされるべきものと認められ,原告は,その商標権について権利を行使することができないとの判断を行いました。

ここで疑問が生じたのは、原告商標の審査段階での商標法第4条第1項第11号該当の有無です。
確認してみますと、やはり商標法第4条第1項第11号に該当する旨の拒絶理由を通知されていましたが、意見書を提出することで解消しております。原告商標が標準文字であることから推察しますと、原告商標の一連一体性を主張して非類似である旨の反論を行い、登録になったことが考えられます。

本件と同様の事件として、平成30 年(行ケ)第10121 号 審決取消請求事件があります。
これは、原告であるキリン株式会社が「キリン」「KIRIN」などを引用商標として被告商標「キリンコーン」(ロゴ、指定商品 第31類「とうもろこし」)に対して商標法第4条第1項第11号及び第15号に該当する旨の無効審判を請求したところ、無効審判では被告商標の一体不可分性が認められて無効にならなかったが、知財高裁では被告商標の「コーン」は指定商品「とうもろこし」の英語「CORN」の片仮名読みであり、被告商標の要部は「キリン」と認定され、最終的には原告商標の「キリン」と類似すると判断されました。

この2つのケースから考えますと、商標A「●●●」と商標B「●●●+普通名称」の類否判断において、特許庁では商標B「●●●+普通名称」の一連一体性などを重視して非類似と判断する傾向があるが、裁判所まで争うと商標全体の一連一体性よりも「●●●」部分と「普通名称」部分の識別力の軽重の差に重きが置かれ、「●●●」と普通名称部分が分離されて「類似」と判断される傾向にあるということができそうです。

侵害を見つけたときは感情的になってしまい一刻も早く権利行使を行うことばかり考えがちですが、返り討ちにあわないように、権利行使を行う前に登録商標の使用の有無だけでなく、無効の抗弁の可能性も検討する必要があります。
本件から考えますと、特許庁と裁判所で類否の判断が分かれる傾向のある「●●●+普通名称」からなる登録商標においては注意が必要といえそうです。

清水三沙

清水三沙