照明用シェード事件【著作権判決紹介】

平成 30 年 ( ワ ) 第 30795 号 著作権侵害差止等請求事件(東京地裁)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/503/089503_hanrei.pdf

今回の判決紹介は応用美術に関する著作権侵害事件です。

 

事件の概要

アート作品の発表、プロダクトデザインといったグラフィックデザインなどの活動を行っている原告らが、被告らが制作した被告作品は原告作品を改変したものであるから、被告らが被告作品を制作、販売等する行為は原告らの翻案権及び同一性保持権を侵害するとして、損害賠償等を求めた事件です。
なお、被告作品については意匠登録されており(登録第 1574099、1591314 号)、原告はこれらについて平成 30 年 9 月 28 日付で無効審判を請求しています。

 

シェード原告

原告作品

 

 

被告作品

 

争点1(原告作品の著作物性)について

応用美術の著作物性についてはたびたび取り上げているかと思いますが、原告作品も実用目的に供される美的創作物としてその著作物性の有無が判断されています。

同作品は後記2(2) 記載のとおり,内部に光源を設置したフレームの複数の孔にミウラ折りの要素を取り入れて折ったエレメントの脚部を挿入し,その花弁状の頭部が立体的に重なり合うように外部に表れてフレームを覆うことにより,主軸の先端から多数の花柄が散出して,放射状に拡がって咲く様子を人工物で表現しようとしたものであり,頭部の花弁状部が重なり合うことなどにより,複雑な陰影を作り出し,看者に本物の植物と同様の自然で美しいフォルムを感得させるものである。このように,原告作品は,美術工芸品に匹敵する高い創作性を有し,その全体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものであって,美術の著作物に該当するものというべきである。

応用美術の著作物性については判断が難しいところですが、本件原告作品について著作物性が認められることについて異論はそこまでないのではないかと考えます。

 

争点2(被告作品の翻案該当性)について

判決ではまず「翻案」について改めて以下のとおり判示しています。

著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。

 

本事件においては依拠性には争いがなく、「被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか」が問題となりました。それぞれの共通点、相違点は判決に詳しく記載されているためここでは割愛させていただき、それぞれのポイントを取り上げていきたいと思います。まず、原告作品の本質的特徴については、裁判所は以下のとおり判断しています。

 

原告作品と同様の照明用シェードである「umbel」についての原告らの説明(前記第2の2(2) ウ)によれば,原告作品の基本的なコンセプトは,主軸の先端から多数の花柄が散出して,放射状に拡がって咲くという自然界の散形花序の特徴を,人工物である照明用シェードによって表現することにあり,本物の植物が見せるのと同様の自然で美しいフォルムをもった照明シェードを制作することにあると認められる。

( 中略 )

以上によれば,原告作品の本質的特徴は,エレメントが球状体の中心から放射状に外を向いて開花しているかのような形状をしており,花弁同士が重なり合うなどして複雑で豊かな陰影を形成するとともに,その輪郭が散形花序のようにボール状の丸みを帯びた輪郭を形成していることにあるというべきである。

上記の原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成,形状は,前記 (2) 認定にかかる原告作品の構成,形状に照らすと,①原告エレメントが剣先状の花弁と,その内側に配置された大きな星形状の花弁状と,さらにその内側に配置された小さな星形状の花弁から構成されること,②エレメント頭部にミウラ折りの要素を取り入れ,各花弁の縦方向中央には折り線が設けられ,更に同中央部から斜め方向に平行な複数の折り線が設けられていること,③光を拡散する光学的特性を有する乳白ポリエステルシートが使われていること,④大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が,水平方向を基準に,中心から上斜め方向に伸びた後,水平な角度となっていることにあると考えられる。

 

一方で、原告作品と被告作品の共通点については、以下のとおりの判断がされました。

 

共通点Aは作品全体の構成であり,共通点B~Eはフレームの構成,形状等に関する共通点であり,いずれも,看者の目に入らず,その注意を惹かない部分であって,原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではない。

また,共通点Fは,エレメントが脚部頭部から構成されるとの基本的な構成において共通することを意味するにすぎず,共通点Gについては,後記のとおり,これをもって被告作品にミウラ折りの要素が取り入れられているということはできない。共通点Hも,エレメントをフレームの孔に挿入すると,エレメントの脚部においてエレメントの挿入が止まるということはその機能上当然のことということができる。

さらに,共通点Iについて 5 は,フレームの表面上において,エレメント頭部が重なり合う点で共通するにとどまり,原告作品の輪郭に関する特徴を被告作品が有するものではない。

以上のとおり,共通点A~Iは,いずれも原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではなく,これらの共通点から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできない

 

相違点についても細かく評価した上で、上記原告作品の本質的特徴を実現するためめに重要な構成,形状①~④について、以下のとおり印象の違いを判断しています。

 

〔①エレメントの構成〕
原告作品のエレメントが,どちらかというと平面的で,実際の花がその中心部から花弁を開いているような印象を与えるのに対し,被告作品のエレメントは,両刃部の先端が鋭利で様々な方向に突き出していること(相違点G)もあいまって,より立体的で人工的な造形物に近い印象を看者に与えるものとなっ
ている。

 

〔②エレメント頭部のミウラ折りの要素〕
原告作品のエレメントが,ミウラ折りの要素を取り入れていることを特徴とし,これにより豊かな陰影を形成するとともに,柔らかい丸みを帯びた輪郭を形成しているのに対し,被告作品のエレメントは,大両刃部の上端等が三角形で構成され両刃部の先端が鋭利で様々な方向に突き出していること(相違点
G)もあいまって,より立体的で人工的な造形物であるとの印象を看者に与えるものとなっている(特徴Y①)

 

〔③エレメントの素材(原告:乳白ポリエステルシート、被告:プリズムシート)〕
原告エレメントは,光源からの光により乳白色に光り,柔らかく豊かな陰影を形成しているのに対し,被告エレメントは,フレームの内部に設置された光源の光の明るさが均一にむらなく光り,クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであり,原告作品とは全く異なる印象(特徴Y③)を看者に与えるものとなっている。

 

〔④花弁又は両刃部が伸びる方向〕
原告エレメントは,フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり,全体として,原告作品の表面は花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた印象を看者に与えるのに対し,被告エレメントの両刃部の先端はフレームの表面から離間する方向やフレーム表面に向かう方向など様々な方向に鋭く突き出していることから,被告作品の表面は凹凸があって刺々しい印象(特徴Y②)を与えるものとなっている(相違点I)。

 

以上のとおり,原告作品と被告作品とは,原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成,形状において相違しており,被告作品は,自然界に存在する花のような柔らかく陰影に富んだ印象を与えるのではなく,より立体感があって,均一にむらなく光り,クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであって,その輪郭も,散形花序のようにボール状の丸みを帯びたものではなく,凹凸のある刺々しい印象を与えるものであるから,被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないというべきである。

 

依拠性について争いはない事件ではありましたが、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接看取することはできないとして被告作品は原告作品の翻案には該当せず、原告らの同一性保持権を侵害するものではないとの判決が下されました。なお、被告作品に係る意匠権の無効審判事件(公知&創作容易)についても、請求は成り立たない旨の判断がされています。

 

ミウラ折り自体は人工衛星の太陽電池パネルや地図などにも使用されており、名称を知らなくともその折り方を見たことがあるという人は多いと思います。原告作品はこのミウラ折りを照明用のシェードに応用しており、これを保護したいという気持ちが非常にわかるものですが、全体的な印象は確かに異なり著作権による保護の難しさが伺えます。著作権による保護の難しさという意味で本件と事案(争点)が全く異なりますが、メルマガでも取り上げたステラマッカートニー事件(伝統的な文様である組亀甲柄によるレリーフは単なるアイデアであり著作物として認められなかった)がふと頭をよぎりました。

服部京子

服部京子